爆発侍 尾之壱・爆発刀 九
第一章 九尾の狐と素浪人 三
「それに、なんでございましょう?」
「……こちらの事だ。気にするな」
右門は頭を振ると、
「とにかく、俺が出来る事があるのならば、手を貸そう。安心するがいい」
「あ、ありがとうございます……」
右門の意思に揺るぎが無い事をようやく理解したのか、女は安堵したようだ。胸に手を当て、ほっ、と、息をつく。
「しかし、お前のその所作を見るに、狐の化身とは到底信じられんな。どう見ても普通の女人にしか見えんぞ」
「わたくしも、この姿で少なからぬ時を人の世で生きておりますので、怪しまれぬ程には所作を心得てはおります……あの、あまり見ないで下さいませ」
感心する右門に、女は恥ずかしそうに目を逸らした。
「とにかく、まずは山を下りよう」
「山を、降りるのですか?」
右門は頷くと、手にした朱鞘を腰に差し直すと、折れた「櫂型」を拾う。
「いつまでもここで問答しているわけにもいかん。それに、腹も減っただろう?」
「おなか……ですか」
小首をかしげる女に、右門は笑いながら腹をさすって見せる。
「少なくとも、俺は腹ぺこだ。村に帰れば、おとき婆が作ってくれる朝餉がある。一緒にそれを食いながら、お前の問題とやらを聞くとしよう」
「は、はい」
「それと……今更なのだが、そもそも順番がおかしかった」
「え……なんの、順番ですか?」
女はきょとんとする。
「色々と話をする前に、まず聞かねばならん事を忘れていた、と言う事だ」
なおも訳が解らない、という感じの女に、右門はため息をつくと、
「いつまでも『御武家様』『お前』では、肩が凝って仕方があるまい?」
右門はそう言うと、着物の襟を正し、女に会釈する。
「改めて、名乗らせてもらおう。俺の名前は龍堂右門。この山の麓にある峰久里村に住む素浪人だ」
「龍堂……右門……様」
「そうだ。で、お前の名は、なんと言うのだ?」
「わたくし……の、名前ですか……」
女は意外な事を聞かれた、と言わんばかりに目を見開くと、しばらくもじもじとなにか考え込み、
「ええと……た、玉……藻……」
そこまで言うと口ごもり、考え込んでしまう。
「たまも、と言うのか?」
「あ、いいえ、わたくしの名前は……そうではなくて、ええと……」
女はまたもじもじと考えると、そうだ、とつぶやき、右門を見上げた。
「わたくしの事は、おこん……と、お呼び下さいませ」
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