爆発侍 尾之壱・爆発刀 三四

「宮部伊三郎……ですか?」
「そうだ。智惠家の家中の者では無いのだが、かの藩の『食客』に、あの変則二刀を操る男がいるようなのだ」
「もしも、その宮部という男が土蜘蛛なのだとしたら、山北助右衛門とも繋がると言う事ですね……」
 なるほど、と呟くおこんに、
「ほぼ間違いなかろう。だから、まずはその宮部伊三郎という男を確かめたいのだ」
「宮部伊三郎が土蜘蛛だと確かめられれば……その脅威に対抗する道も開けますわ」
 右門はおこんに頷くと、
「明後日、俺は堤道場の門人として智惠家の屋敷へと出稽古に同行する事となった。その場には件の宮部伊三郎も顔を出すようだから、恐らくはまみえる事が出来るだろう」
「では、その場で斃すのですね?」
「いや、そう簡単にはいかない」
 期待に目を輝かせるおこんに、右門は渋顔で首を振る。

 おこんは柳眉をしかめ、「何故ですか。右門様ならば、必ずや土蜘蛛にも勝てましょう?」
「勝敗以前に、そもそも戦う事が容易くない。宮部伊三郎は人の姿をしており、しかも智惠家の食客なのだ。怪妖の正体を知る者は、俺達しかいない。そんな状況で、宮部を斬って捨ててみろ」
「……右門様は、単なる人殺し、と言う事になってしまうのですね」
 おこんはようやく事情を飲み込み、顔を曇らせた。
「右門様を……人の世で咎人とがびととする訳にはまいりません。斃すにしても、策を講じなければならないのですね」
「そう言う事だ。土蜘蛛が智惠家食客の宮部伊三郎でいる限り、表立って戦い、斃す事は叶わないだろう。となると、奴が一人の時に戦いを挑むか……だが、そう簡単に隙を見せてくれるとは限らん」

 右門はううむ、と考え込む。
「宮部が衆前ひとまえで怪妖の正体を現してくれようものならば、まだやり様もあるのだが……」
「正体を現すようにすれば、よろしいのですか?」
 右門の言葉を聞き、おこんの顔がぱっと明るくなった。
「それならば、なんとかなるかも知れませんよ」
「本当か、おこんさん?」
 思わず身を乗り出す右門に、おこんはにっこり頷く。
「宮部……土蜘蛛の化身に関してですが、一言で『怪妖が人間や他の生き物の姿になる』と言っても、その形式は大まかに二つの方法が在るのです」「二つ?」

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