爆発侍 尾之壱・爆発刀 伍
序章 峰久里稲荷の怪異 伍
目で追うのも難しいほどの猛烈な勢いで、こちらに突っ込んでくる。
だが、最初のやりとりでその人外の速さを知る右門は、もとより自らの目に頼る事なく、想定された位置に向かって迷わず「櫂型」を振るった。
渾身の逆袈裟。
天に向かって跳ね上がる木剣に、なにかが掠る手応え。
浅い。
右門はそのまま息を止めて体ごと翻ると、これまた予想していた一点に、二の太刀となる切っ先を突き込んだ。
今度は確かな手応えがあった。
右門の目に、右腕を振り回しながらきりきり舞いする浪人が映った。
どうやら突いた切っ先は、浪人の右肩に当たったようである。
間違いなく肩の骨は砕かれただろう。
だが、これで終わる相手ではない。
右門の左腿が膨れあがり、その足がだん、と地面を蹴った。
そのまま右腕一本で、もう一撃「櫂型」を突き込む。
渾身の力が込められていた。
その先には、浪人の首。
ごきり、という音と共に、「櫂型」の切っ先が浪人の首にめり込んだ。
これで終わりだ。
首をへし折られて生きていられる者はいない。
右門はここでやっと、大きく息を吐いた。
そこに、全く予想出来ない一撃が襲いかかった。
右上から振り下ろされる刃を「櫂型」が辛うじて受けたのは、残心の備えではなく、まさに僥倖、無意識の反射の賜物であった。
肺腑から空気が絞り出された状態で、右門は必死になって身をよじり、そのまま倒れ込んだ勢いで地面をごろごろと転がった。
なんとか浪人から距離を取ると、右門は咳き込む。
右手の「櫂型」は、刀身の半分ほどの所で失われていた。それは切断されたと言うよりも、半ばからへし折られたようになっている。
立つ事も忘れ、信じられない思いで右門は顔を上げた。
信じられなかった。
右門の目の先には、浪人がなおも仁王立っていたのである。
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