爆発侍 尾之壱・爆発刀 二七
第二章 温泉宿場の邂逅 十二
しかも、である。殺生石から解放されたおこんは、その消耗しきった心身を癒やす為に直ちに山野の奥深くに潜むしか無く、回復に専念していたのだ。
その山に温泉の一つでも湧いていれば幸いだったのだが、そこまで世は甘くは無く、しかしもうそれ以上移動する力も尽き果て、おこんは薄暗い洞窟の奥で、ただひたすらに地脈から大地の気を吸収する他は無かったのである。
おこんの身体に妖気が充填され、人の姿に化身出来るようになったのは、つい半年ほど前の事。しかも、その直後に山北助右衛門の追求が始まり、以後気の休まる事も無い逃亡が続いたのだ。
詰まるところ、まともな入浴は、実に三百年ぶりと言う事になるのである。それもあって、殺生石への旅が右門に了承されて以来、おこんは密かに、
「温泉に入れるかも知れない」
と期待していたのだが、それが遂に叶ったのである。
「右門様を頼れて、本当に良かった……」
今、おこんは、殺生石から解放されて以来、初めてとも言える至福の中にいた。そして、今また改めて、右門に心から感謝した。
おこんは湯の温かさに全身を包まれながら、うっとりと辺りを見渡した。そして、岩をくりぬき、積み上げて設えられた浴槽を中心に、自然の景観を模した露天風呂の見事な造りに目を細める。
人の手で人の手によらぬ自然を形作り、その中に独特の心情を込めてゆく。だが、そこに必要以上の華美を求めない。この国の人間が持つそうした美学が、おこんは好きだった。
「この国の独自の美学……詫び寂び、だったかしら……まあ、それは置いておいて」
そうつぶやいて、おこんはため息を一つついた後に苦笑する。
「……ねえ、あなた、そろそろ出てきたら?」
おこんが声をかけた先には、竹林を模した植え込みがあった。
その奥から、ふらりと影が現れ、此方に歩み寄る。
どうやらそれが腰に大小を差した男だと解る距離で、影は止まった。
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