爆発侍 尾之壱・爆発刀 十四

第一章 九尾の狐と素浪人 八

 右門はおこんの心中を察すると苦笑しながら、
「いいから話せ。大丈夫だ。おこんさんの昔の話でどうこう言うつもりは無い」
 右門の言葉に心底安心し、おこんはほっと息を吐くが、それでも話し辛そうに口を開く。
「石と化したわたくしの身体から、ええと……毒素……が、溢れ出て、ええと、それが……周囲の生き物の命を……その……奪う事に……」
「待て、その話は聞いた覚えがある。それは、那須にある『殺生石せっしょうせき』の事ではないか?」
 おこんは頷いた。
「仰る通りです。殺生石は、石に封じられたわたくしだったのです」
「だが、殺生石は、今も彼の地に存在すると聞くが?」
「今あるのは、わたくしの『抜け殻』です。今は、人を殺める毒素も出してはおりません」
「そうだったか。続けてくれ」
 右門に促され、おこんは頷くと、昔の記憶をたぐるように宙を見上げる。
「あれは……わたくしが石に封じられて三百年ほどが経った頃でしょうか。人を殺める毒素の噂を聞いたとある仏教僧によって、殺生石は打ち砕かれる事になったのです」
 殺生石を砕いた仏教僧の名は源翁心昭げんのうしんしょう。南北朝時代の曹洞宗そうどうしゅうの僧で、だいたい三百年ほど昔の話となる。
「その僧が殺生石を砕いた事で、以後は毒素を出さなくなったのだな」
「はい。石が砕かれる事によって、わたくしの本体と妖力が離れる事になりましたゆえ」
「本体と妖力が離れる……そうか、聞いた話によると、砕かれた殺生石のかけらが、そこから各地に飛び去ったのだったな」
 そうです、とおこんは頷き、
「その飛び去ったかけらは、わたくしの九本の尾のうちの八本なのです」
「尻尾?」
「はい。先程お話ししました通り、わたくしは、九本の尾にそれぞれ蓄えた妖力を力としているのですが……」
「なるほど、それらのほとんどを失った事で、今のおこんさんは力の源のほとんどが失われてしまっている、と言う事だな?」
 おこんは悲しげに頷いた。
「ところで、飛び散った尾は八本と言ったな。残る一本は残ったのか」
「はい。わたくしは残された一本の尾の妖力を使って、石から無事に抜け出せたのです」
「そうして復活したのが、今目の前にいるおこんさん、と言う事か」
「はい。石から解放されたわたくしは、以後は人目に付かぬ山中に潜み、衰弱しきった心身の回復に努める事になりました。なんとか人の姿に変化し、普通に動けるぐらいまで妖気を取り戻すまでに三百年かかりましたが……」
「なるほど、なんとなく話が見えてきた」
 右門は、おこんの言葉を遮って言った。
「要するに、その失った八本の尾を取り戻したい、と言う事ではないのか?」
「はい、仰る通りです。失った尾を全て取り戻すために、是非とも右門様のお力をお貸し願いたいのです」

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