爆発侍 尾之壱・爆発刀 三二

「ええっ?」
 おこんの驚き様に、右門は躊躇いながら、
「いや、今後もおこんさんの身を守る存在ならば、俺とも関わり合いが出てこよう。その際に、それらを呼ぶのに『あれ』だの『それ』だのでは、格好がつかないと思わないか?」
「格好って……そういう、ものなのですか?」
「うむ。少なくとも俺は、どうにも気持ちが悪い」
「と、仰いましても……」
 真顔の右門をおこんは困り顔で見つめるが、どうやら、その気は変わりそうも無い。
「そういう事でしたら……別に、わたくしは構いませんけれど」
「そうか、それは有り難い」
 右門は笑顔で頷いた。

「それにいたしましても……名も無き卑しいにあやかしも心を砕かれるとは。不思議な御方です。右門様は」
 右門の笑顔を見つめていると、おこんは訳が解らないながらも、胸中に温かいものがわき上がるのを感じた。
「……それも、人の情なのですか」
「いや、そんな大層なものじゃ無い。単に、俺の得心がいかぬだけだ」
 いずれにしろ、右門が望む事ならば、おこんにとってもそれは利となるだろう。ならば、それに従う事に否やは無かった。
 実のところ、名を持たぬ怪妖に名を付ける事に依るとある「変化」があるのだが……まあ、それはそれで、構いはしないか。
 おこんは頷くと、右門の前に両掌を差し出した。
「解りました。これらに名をつける事で右門様のお気が済むのなら、どうぞお好きなようになさいませ」
「うむ。では早速だが……」

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