爆発侍 尾之壱・爆発刀 十三

第一章 九尾の狐と素浪人 七

「何処かで聞いた事あるなぁ、とか、少しも無いんですか?」
「うむ。無い」
「……」
「……なにをむくれているのだ?」
「…………」
「ああ、もしや、驚いて欲しかったのか。これは済まない事を……」
「もう、いいです」
 おこんはぷいっとそっぽを向いた。
「ふむ……」
 首を傾げる右門を見て、おこんは困ったような、怒ったような、安堵したような、なんとも不思議な表情を浮かべた。
「わたくしの事は、大陸では名を知らぬ人間はいなかったんだけど。って言うか、この国でだって色々してきたわよわたくし。なのに、どうして知らないのかしら……でも、知らないほうが良いのかも……伝わっているのも、良い話より悪い話のほうが圧倒的に多いわけだし……」
「なにをぶつぶつ言っている?」
「……なんでもありません」
 おこんは大きなため息をつくと、右門に向き直り、
「では、とにかく、九尾狐という大妖怪がいて、それがわたくしだという事を、まずは、ご承知おき下さい」
「わかった。おこんさんは妖怪なんだな」
「『大』妖怪です!」
「おいおい、なにを怒って……ちょっと待て、そうなると、どうにも解せない事がある」
 右門は、なおも膨れっ面で自分を見つめるおこんに眉をひそめて見せた。
「その大妖怪が、多少剣が振れるだけのただの男に、何故頭を下げて助けを求めるのだ。大妖怪なら、とんでもない神通力でもなんでも心得ているだろう。それを使って、大抵の事はどうとでもなるのではないか?」
「普段ならば、どうとでもなりました……」
 おこんはそう言うと、悲しげな、悔しげな様子でうつむいてしまう。
 再び、二人の間に沈黙が訪れる。
 どこか遠くで、蝉の鳴く声が聞こえた。
「……続きを聞かせてくれ」
 右門にそう促されると、おこんは顔を上げ、頷いた。
「わたくし……九尾狐は、その名の通り九本の尾を持つ狐の姿をしております。この九本の尾は、わたくしの力の源として、それぞれが大きな妖力を持っているとご理解下さい」
「なるほど……続けてくれ」
「そもそものお話は、少々時を遡ります。昔々、平安の世の事です。わたくしは当時、時の上皇様の御寵愛を受けておりましたが、色々あって九尾狐の正体を知られてしまい、結果、時の陰陽師の力によって、下野国のとある地に石として封じられてしまったのです」

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