爆発侍 尾之壱・爆発刀 四二
堤の言葉で、稽古に参加していた一同が礼をする。普段ならばここで銘々解散し、隅にある井戸の水で汗を拭った後にそれぞれの役目に戻るのだが、今日は一同がその場に残っている。それは、堤の言葉を待っていたように、藩主である智惠道徳が姿を現したからであった。
緊張し、居住まいを正して頭を下げる一同に応えながら、智惠は堤と右門のもとへと歩み寄る。
他の家臣同様に頭を下げる二人に、堤も返礼する。
「堤殿、役目が取り込んだ故、今日の稽古に参加出来ず申し訳ない」
「お役目が大事でございます。その代わりに、日々の鍛錬を疎かになさいませぬよう」
「ははは、勿論、さぼってはおらぬよ」
堤に笑顔でそう答えると、智惠は右門を見やった。
「この者が、例の剣客か」
「はい」
堤に促されると、右門は智惠に改めて頭を下げ、
「龍堂右門と申します」
「龍堂……右門殿か。なるほど、話に違わぬ腕の持ち主と見たぞ。さて、堤殿。例の件だが」
「はい、話しております」
堤は頷くと、右門を見て、
「右門、これからこちらの御家中の剣士と、木剣試合をしてもらう」
「承りました」
右門がそう答えると、智惠は手を二度叩き、屋敷に向けて声をかけた。
「宮部よ、此方へ」
宮部という名を聞いて、右門は眼を僅かに細め、智惠が声をかけた方を見やった。
屋敷のほうから、細身の人影がゆらりと姿を現した。
六尺(約180cm)はあろうか、右門を上回る長身だが、なによりも手脚が異様に長いのが印象に強い。
間違いない。あの男だ。
腰に大小を二本差しし、左手にも同様の二本の木剣を手にしたその浪人は、あの夜、宿の露天風呂でおこんを襲った男に相違なかった。
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