爆発侍 尾之壱・爆発刀 二八

第二章 温泉宿場の邂逅 十三

 光が闇に、闇が光に。
 
 目に映る風景が、まさに「裏返った」かのごとく、その光と色を逆転させたのである。
 異空間と化した露天風呂の中で、おこんが立てる湯の音が響いた。
「……で、わたくしを閉じ込めた御用向きはなにかしら?」
「知れた事。お前の力を戴きに参上した」
「わたくしの力……ねぇ」

 おこんが湯に浸かったまま、呟く。
「わたくしの力の事を知っていて、これだけの結界を張れるとなると……あなた、単なる怪妖じゃ無いわね」
「いかにも、そのつもりだ」
 男の肩が震える。どうやら笑ったようだ。
「原初の闇から出で、悠久の時を生きている大妖よ。お前ほどの格は持ち合わせておらんが、一廉ひとかどのものとは自負している」
「それはそれは」

 おこんはころころと笑う。その様子に侮蔑の意を読み取り、男から発せられる気配が変化する。
「ずいぶんと余裕があるではないか。今のお前の有様、知らぬ訳では無いぞ。それに加えて、お前をあの田舎神社で助けた浪人者は、『こちら側』にはやって来られぬ」
「やっぱり。あなた、『山北助右衛門』の主ね」
 

 ここに至って、おこんはようやく湯から立ち上がり、男へと目をやった。
 湯のしぶきがざぶりと跳ね上がり、白い肌を流れ伝って月明かりに濡れ光る。
 おこんはその裸身を晒すのも構わず、男を見つめた。
「この結界から『山北』と同じ臭いがしたからそうじゃないかとは思ったけれど、まさかそっちから出向いてくれるとはね」
「同じ言葉をそっくり返そう。こちらこそ、まさかお前がこの地に戻り来るとは、夢にも思わなかったぞ」
「別に、目的はあなたに遭う事じゃないわ。でも、せっかくだもの。あの時のお礼をさせてもらおうかしら」
 ざあっ、と、おこんの髪の毛が逆立つ。

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