もしも「シンデレラ」の語り手があずきみみこだったら
割とさいきん、とある街に
新田 令羅【しんでん れら】
(あだ名:シンデレラ)
という高校生が住んでいました。
レラは、父の再婚相手と
その連れ子2人と暮らし、
それなりに上手くやっていました。
夕方のこと、
シンデレラにごはんを催促する
姉の声が聞こえます。
レラはこの家のご飯担当です。
少しは手伝ってほしいところですが、
継母と姉たちは”食べものをどうにかする”
という概念がちょっとないので
まったく作ろうとしません。
レラはぶつくさ小言を言いながらも
かぼちゃの煮物と豆腐のみそ汁を作り、みんなで食べました。
ある日のこと、
「それじゃあシンデレラ、留守番よろしくね」
継母たちは武道館へ出かけて行きました。
一家でハマっている推しのライブ。
初めての武道館公演に
レラも舞い上がっていたのですが、
悲しいことにレラだけが
チケット抽選に外れてしまったのです。
今日に至るまでチケットを
譲るそぶりを全く見せなかった
継母と姉たち。
誰もいなくなった家でレラは
仕方なく、作り置きのレシピを
クックパッドで検索することにしました。
するとそこに、ピンポーンと
家のチャイムが鳴りました。
開けてみると、そこには1人の老婆が
立っていました。
レラのおばあちゃんでした。
レラのおばあちゃんはどんな食材も
美味しい料理に変えてしまうので、
近所の人から
「魔法使いの新田(しんでん)さん」と
呼ばれていました。
なのでレラは、家にたくさんあるかぼちゃを
調理してもらうよう、おばあちゃんに
お願いしました。
すると、おばあちゃんはあっという間に
おいしいかぼちゃグラタンを作ってみせました。
レラは大喜び。
そしてあることを思い出します。
レラはネズミのぬいぐるみをおばあちゃんに
あげることにしました。
この頃レラは、よく懸賞に当たるのです。
チケットを除いて。
そして、おばあちゃんも
あることを思い出しました。
それはなんと、あの武道館ライブのチケットではありませんか。
レラは大喜び。
ですがもう開演時間が迫っています。
その様子を見たおばあちゃんは言いました。
レラはこの日のためにメルカリで買ってあった
ワンピースと、一目惚れしたクリアサンダルに
急いで着替え、
おばあちゃんの愛車である
「かぼちゃ色の乗用車」に乗って武道館へ
急ぎました。
そうして無事に間に合ったレラ。
おばあちゃんにお礼を言って会場内に入りました。
席を確認すると、なんとアリーナ最前列ではありませんか。
継母たちはみな、スタンドの遠い席だと
聞いていたので、レラは少し不憫に思いながらも
ほくそ笑むを抑えられませんでした。
ライブが始まって、レラの王子様が現れたとき
レラは、生きててよかったと心から思いました。
そして、夢のようなひとときは過ぎ
あっという間に王子様との別れが来てしまいました。
夢現(ゆめうつつ)でぼんやりしているレラも
終バスがあるので急がなければなりません。
レラは必死に走りました。
途中、下ろしたてのクリアサンダルが
片方脱げても構わず走りました。
でも、さすがに走りにくすぎて取りに戻りました。
とうとうレラは終バスを逃してしまい、
仕方がないので2時間かけて歩いて帰りました。
レラは
疲労感と足の痛みに襲われながらも、
頭は先ほどのライブのことでいっぱいで
幸せに浸りながら帰路につきました。
それから何日か経ったある日、
ちょうど継母と姉たちが帰宅したところに
郵便局員が来ました。
どうやら新人らしい郵便屋さんは、
封筒を片手に言いました。「こちらに
新田令羅さんという方はいらっしゃいますか」
継母は代わりに
その封筒を受け取ろうとしましたが、
新人の郵便屋さんはマニュアルよりもマニュアルに忠実なので
頑なに本人に渡そうとします。
奥から出てきたレラは、その封筒を受け取りました。
自分の部屋でこっそりその封筒を開けると、
中には「ご当選おめでとうございます」
という手紙と、推しのサイン入りチェキが
入っていました。
そしてそれは、レラの部屋の写真立てに
ピッタリとはまりました。
レラは継母たちに見つからないよう
その写真立てを引き出しにしまい、
時々それを眺めては
しばらくの間、幸せに浸りましたとさ。
めでたいんだか、めでたくないんだか。
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