トースト、トマトジュース&半熟卵

 1966年、小学5年の時、父の転勤で青森から高松へ引っ越した。両親と年の離れた兄2人と車中2泊の長旅である。列車を乗り継ぎ青森から宇野。宇野から高松は宇高連絡船だった。

 記憶は断片的だが、大宮の鉄道ライブラリーでこの時の列車を調べてみた。当時の時刻表から、青森から上野は急行「十和田第2」、上野から宇野は急行「さぬき」。この辺りの可能性が高い。

 また父が連れていってくれた食堂車はモハシ151形とわかった。『食堂車バンザイ』という本に写真が載っていたのだ。それはテーブル席ではなく、カウンター式の食堂、ブュフェである。時刻表ではコーヒーカップのマークで表示される。ビジネスマンを対象として考えられ登場したものだ。

 このブュフェのカウンターで、私はカウンターパンチを食らった。

 まずはトースト。家のは必ず焦げていた。バターナイフでけずったが、とりきれなくてほろ苦かった。でもここのは黄金色。世の中に、茶色と金と白の、こういうグラデーションがあるのか。苦くないトーストは、外国の朝の味がした。

 次にトマトジュース。名前は聞いたことはある。ジュースの缶もどこかで見た気がする。が、そもそも飲むシチュエーションがない。でも今ここにグラスに入った、粘度の伝わってくるドロりんとした、まっ赤な物体がある。これは本当に飲み物だろうか。味は、意外にいけた。

 そして真打、半熟卵。エッグスタンドに入れてもらって鎮座している。あなたは本当に卵ですか。殻の頭をほじる。スプーンですくうと黄身が山吹色でねっとりまつわりついてくる。塩をふって食べる。私はもう大人だ。

 隣の父も、もしかしたらブュフェのコックさんも、私を見ていて面白かったかもしれない。

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