「二次元の嫁」から「推し」へ

 ツイッターで「今のオタク文化で好きなキャラクターを『推し』と表現するが、『俺の嫁』と言っていた界隈は絶滅したのだろうか」(要約)というツイートを見かけたので、私なりに「二次元の嫁(俺の嫁)」から「推し」への推移を考察する記事を書きました。

 今となってはめっきり使う人が減りましたが、アニメ、まんがやゲーム、ラノベなどのキャラクターを指し「○○は俺の嫁」と言った発言は、以前はネット上でちらほらと見かけました。
 二次元のキャラクターに対し、「俺の嫁」と発言することは、多少なりとも「はずかしい」事でした。その「はずかしさ」も込みでの発言だったと記憶しています。その源流は、2000年以前から存在するテキストサイトの「しろはた」を運営していた本田透氏の発言だったと筆者は記憶しています。本田氏は現実世界(三次元)の女性へのルサンチマンやミソジニー的発言をしながら、「だから、二次元に恋をしてもしょうがない。むしろするべきだ」的な発言をする人物でした。その発言が「芸」だったのか「マジ」だったのかは多小判別が難しい所がありますが、筆者はテキストサイト「しろはた」を通じて、「二次元の嫁」という概念が広まったと考えます。
 その後、「二次元の嫁」という概念はルサンチマン的な部分やミソジニー的な側面を急激に薄めつつ、ライトな感覚で「おたく達」の間で広まっていきました。
 涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ版・2006年)に登場したキャラクター、長門有希を指し「長門は俺の嫁」という言説をネットミーム的な使われ方も合わせ、ネット上でよく見かけるようになりました。
 また、2009年頃のニコニコ動画のブームでは動画に「俺の嫁」というたくさんのユーザーコメントが付きました(弾幕)。2020年現在、「ニコニコ動画 俺の嫁」で検索をかけると、2009年~2011年あたりの動画も今だにヒットいます。ちなみに、当時のニコニコ動画で人気があり、「御三家」と言われた作品は、「アイドルマスター」「東方Project」「ボーカロイド」でした。
 一方、2009年にアニメ版の放映がはじまった「けいおん!」も大ヒットし、登場キャラクターを指し「あずにゃんは俺の嫁」といった言説が多く見られるようになります(「あずにゃんぺろぺろ」という言葉も多く見られました)。2011年のアニメ、魔法少女まどか☆マギカのキャラクターを指し「ほむほむは俺の嫁」と言った言説も見られました。
 涼宮ハルヒの憂鬱、アイドルマスター、けいおん!などは、(空想上の)現実と地続きであり、「空想上の嫁」という妄想がしやすかったのかもしれません。

 いったん話を転じます。
 昔から、アニメ、マンガ、ゲームを好むおたく層とアイドルを好む層は一部重なっていて、親和性がある程度あるかのような扱いでした。現に「両方好き」というタイプも多くいました。一方で同族嫌悪的に交わらない層も多くいました。
 2005年に登場したアイドルグループAKBは本拠地を「秋葉原」におき、おたく層を意識したかのような展開を行いました。
 2009年にはさまざまな話題となった「総選挙」といわれる人気投票企画が行われました。この「総選挙」はCD1枚につき1枚の「投票券」が封入されたもので、CDを多く買えばかうほど、たくさんの「投票券」が手に入る仕組みで、「AKB商法」として、悪名もこめて一気に知名度を上げました。
 また、「AKB商法」といわれるもう一つの仕組みに「握手会」がありました。それまでのメジャーアイドルとは違い、「握手会」を多数設け、「会いに行けるアイドル」というコンセプトでの活動を行っています。この「握手券」もCDに封入されているもので、買いさえすれば一人で何枚も入手することが可能です。
 この、ファンとの距離の近さが、いわゆる「ガチ恋勢」を生み出す要因になっていると推測します。「アイドルにガチ恋をする」というのは、アイドルを「虚構」のものとして捉えるなら、「二次元の嫁」の相似形といっても過言ではないでしょう。
 そして、「総選挙」は「競争」を演出しつつ、その競争を可視化させ、競争そのものも「コンテンツ」としていきます。その可視化された「競争」は、「好きなアイドルを生き残らせるために推していく」という行為に繋がっていきます。この「競争」を宇野常寛氏の発言に従い「サバイブ系」と称します。

 アニメ、まんが、ゲーム、ラノベジャンルに話を戻します。
 2011年をすぎると、「二次元の嫁」的言説が急激に減っていく実感を思い出します。そして、変わって「推し」が使われていくようになります。
 その頃の人気作は「ガールズ&パンツァー(2012年)」「艦隊コレクション(艦これ)(2013年~)」とキャラクターの多い作品が出てきます。メインキャラクターが多い作品の多くは本質的に「生き残り競争(サバイブ)」の性質を持ちます。アイドルマスターも携帯電話やスマーホトン向けゲームへの進出を機にキャラクターが多数登場するようになります(アイドルマスターシンデレラガールズ(2011年))。
 ラブライブ!は当初からメディアミックス作品で、アニメより先に、作中アイドルμ'sの声優で結成された、同名の「μ's」が現実でのライブを行っており、アイドル方面でよく使われていた「推し」という言葉と親和性があります。「μ's」の存在が際立っているため、多人数によるサバイブ系という要素は弱いものの、「アイドルのイベントで勝ち上がらないと廃校になる」という、生き残り競争の物語が組み込まれています。
 このように、アニメ、ゲームでは、2012年以降、サバイブ系、アイドル系(双方の要素を持つ物もある)の人気が高まっていきます。

 筆者が示唆的に文章を並べた所から、「二次元嫁」と「推し」の変化の間に、AKB48があると考えた読者の方も多いでしょう。2012年からのアニメ、ゲームに登場人物が多数登場するアイドル物が増え、それらの好きなキャラクターを「推し」と表現するのは確実にAKB48の影響があるでしょう。
 しかし、それに加え、モバイル系ゲーム(携帯電話ゲーム、スマホゲーム)のビジネスモデルがアイテム課金からガチャシステムに移り変わっていっているのも大きな変化のひとつと考えます。2012年にはアイドルマスターシンデレラガールズの「コンプガチャ」が景品表示法に違反するとして報じられました。その後、「コンプガチャ」自体は無くなるものの、キャラクターを引く「ガチャ」システムは安定の稼ぎをみせます。
 また、ガチャも色々なシステムが出来、その中でも「ピックアップガチャ」は対象のキャラクターの輩出率が上がるという、「推し」の行為を促進する要素があると考えます。
 このガチャシステムとAKB48のようにキャラクターを多数登場させる手法は非常に親和性が高いと言えます。
 そして、ガチャシステムは、売り上げによって可視化されます。つまり、「推し」の「ピックアップガチャ」の時に、そのゲームの売り上げが上がれば、そのピックアップ対象が今後、優遇される可能性が大きくあります。つまりここにも「サバイブ」の要素が本質的に組み込まれています。
 筆者はこの件でデータを漁るまでは、ここらあたりが結論になるとうっすらと想像していました。しかし作品の年を並べて眺めていくと、「なんで見落としていたのか」と思えるほどの大きな出来事に思い当たりました。
 ヒット作がほのぼのとした日常の延長物から、生き残りをかけたサバイブ系にシフトしていったのは、おそらく2011年です。
 2011年といえば、東日本大震災です。今も残るほどの大きな爪痕を残すほどの激甚な災害でした。
 東浩紀氏は震災直後にツイッターで「日常系作品の持つ意味はこれから変わるだろう」というような趣旨の発言をツイッターでしていたと記憶しています。
 その通りの変質が起きていたと考察できます。
 2011年以前の、まるで、永遠に続くかのような日常系は、2011年以後の、明示的、暗示的に「生き残りの競争」の要素を持たすことで、「今」の肌感覚に合わせた「サバイブ&日常系」に変質していったのです。
 「好きなキャラクターを嫁に迎え、永遠性を享受」する以前に「好きなキャラクターを推して生き残らせる」必要が生じてきて、「推し」という言葉が支配的になったのではないでしょうか。
 (偶然も多く作用していますが、魔法少女まどか☆マギカが2011年前後の橋渡しともいえるポジションになっています)

 最後に、参考として筆者が作成した下調べメモも記述しておきます。
 
「二次元嫁」から「推し」の変移

◆キーとなる人物
・本田透。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E7%94%B0%E9%80%8F
2000年以前よりテキストサイト作成。現実の女性へのミソジニーを前面に押し出し、「二次元の嫁」という概念を広めたと思われる。
◆キーとなるアイドル
・AKB48
https://ja.wikipedia.org/wiki/AKB48
いわゆる「総選挙」における「AKB商法」から、「アイドルは推す物」という概念を広めた。
2005年活動開始
2007年にアキバ枠で紅白
2009年「総選挙」
2010年ヘビーローテーションがヒット
2014年アニメ「AKB0048」(『知る人ぞ知る』扱い)

◆キーとなる作品
・東方Project(2004年から単独で同人即売会)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%96%B9Project
ニコニコ動画黄金期を支えた「御三家」
多数の人気キャラを有する。「同人作品の二次創作に人気がある」というユニークな点を持つ。

アイドルマスター(2005年~)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
2次元アイドルを大きく認知させた作品。ニコニコ動画黄金期を支えた「御三家」。
アイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ(2015年)で再ヒット。
初期は10人のキャラクターだったが、アイドルマスターシンデレラガールズ(2011年)、アイドルマスターミリオンライブ(2013年)よりキャラクターが大量に増え、「人気があるキャラクターは声が付く」などのうわさが流れていた。

・ラブプラス(2009年~)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9
それまでのギャルゲーではほぼ無かった、任天堂DSのタッチペンによるインタラクティブな「コミュニケーション」などが没入感を高めラブプラスのキャラクターを「彼女」と称するユーザーが多数うまれる。

・涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ版:2006年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%BC%E5%AE%AE%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%92%E3%81%AE%E6%86%82%E9%AC%B1_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)
「長門は俺の嫁」という、ネットミームにも近い言葉が使われる。
ある意味突出したセカイ系とも読み解ける。

・けいおん!(アニメ版:2009年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%91%E3%81%84%E3%81%8A%E3%82%93!
大ヒット作。少人数の登場人物による日常系。
「あずにゃんは俺の嫁」

・魔法少女まどか☆マギカ(2011年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%94%E6%B3%95%E5%B0%91%E5%A5%B3%E3%81%BE%E3%81%A9%E3%81%8B%E2%98%86%E3%83%9E%E3%82%AE%E3%82%AB
サバイブ系であり、セカイ系でもある。
放映期間中に東日本大震災がおこる。

・ガールズ&パンツァー(2012年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%26%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%BC
12+2話、劇場版という、少ない話数から構成される作品だが、登場キャラクターはおおく、ファンが分散している。

・艦これ(2013年~)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%A6%E9%9A%8A%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8F%E3%81%97%E3%82%87%E3%82%93_-%E8%89%A6%E3%81%93%E3%82%8C-
多数の人気キャラを有するゲーム。多数のキャラを有しながら「ガチャ」がない点がユニーク。
ハルヒの「長門は俺の嫁」という言葉のパロディとして同名の長門を指し「長門は俺の嫁」というネタがある。

・ラブライブ!(アニメ版:2013年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96!
リアルのライブも含めたメディアミックス。1stライブは2012年。
いわゆる「総選挙」のイベントもある。


◆キーとなる単語
・セカイ系(単語の初出:2002年といわれる)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%AB%E3%82%A4%E7%B3%BB
ひとり、もしくは少数の(主に少女)キャラクターに世界の命運が託される物語などの類型。

・サバイブ系
「生き残り」を軸とした物語(もしくは構造)。
宇野常寛が言及。AKB48はセカイ系であり、サバイブ系でもある。

◆キーとなるwebサービス
・ニコニコ動画
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%8B%E3%82%B3%E5%8B%95%E7%94%BB
ニコニコ動画御三家(東方、アイマス、ボカロ)ブームは2009年頃
弾幕に「俺の嫁」

◆モバイルゲーム(スマホゲー)
・メイプルストーリー
アイテム課金、ガチャ

・iPhone3G(2008年)

・モバゲー
・怪盗バトルロワイヤル
・釣り★スタ

・ピックアップガチャ

・コンプガチャ問題(2012年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%AC%E3%83%81%E3%83%A3

◆コミケ(C98)のジャンルコードで独立している作品など
TYPE-MOON(Fateシリーズ)
VTuber
アイドルマスター
ラブライブ!
東方Project
艦これ
刀剣乱舞
あんさんぶるスターズ!
アズールレーン
黒子のバスケ
ガンダム
TIGER&BUNNY
ユーリ!!! on ICE
ガルパン
ヘタリア
進撃の巨人
名探偵コナン

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おたく系評論の同人活動をしているサークル「砂上の空論」のバーチャルメンバーです。BOOTHで同人誌も販売しています。(https://azuki-anko.booth.pm/ ) バーチャルなサークル活動:動画、noteでの記事、Twitterでのつぶやき
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