ビギナー向け外国特許公報の読み方講座

1.はじめに

 近年の情報インフラのおかげで外国文献の入手は容易にできるようになりました。このため日本特許公報のみならず外国特許公報を読む機会(もしくは「読まなければならない機会」)に恵まれる人も増えたかと思います。
 その一方で「外国の特許公報を読むのは難しい」という声をよく聞きます。たしかに外国語で書かれている長い文章をどう読みこなせばよいかわからなかったり、文章の頭から読んでいるけれどもポイントを発見できず混乱したり、ということが外国の特許公報では往々にして起こりやすいです。
ただ、特許公報を読む時は「読み物として楽しんで読む」機会よりも、「自分にとって必要な情報を得る」機会の方が圧倒的に多いはずです。であれば、「どこ」に「知りたい情報」が「記載」されているかというポイントをつかめれば外国の特許公報であっても「公報を読む」目的は達成できるのではないかと思います。


2.外国特許公報を読むための基礎知識

2-1 特許公報・公開公報の基本構成

 特許は「産業に有用であり、なおかつ特許性がある発明を行った者に一定期間排他的な権利を付与する」という主旨を持つ制度です。「特許性がある発明」であると審査官に納得してもらうため、「①従来の技術において」存在していた「②何らかの課題・問題」を「④解決」するため、「③今回用いた方法を開発した」という流れがわかるように書類の中で論を展開します。これは日本でも諸外国でも基本的に同じです。
 従って、特許公報(公開特許公報、特許公報etc.)に書いてある「内容」は日本の公報であっても外国の公報であってもそれほど変わりません。
基本的に以下の内容が1つの公報の中に盛り込まれています。

•技術分野
•背景技術(従来の技術)
•発明が解決しようとする課題
•課題を解決するための手段
•発明の効果
•実施例

 日本語の公報を読む時もそうですが、外国の公報を読む時も上記の流れ「①②従来技術の課題が何で」「③今回どのような手法を用いて」「④解決に至ったのか」を把握することが基本となります。逆に言えば、記載内容もその展開も日本の公報と同じはずの外国公報が読みにくいのは、記載箇所が見つけにくいことにありますので、今回は記載箇所の見つけ方にフォーカスしていきます。


2-2 外国公報によくある構成

 外国の公報であっても、日本出願人が書く公報においては課題、効果、実施例等が見出しとともに整理され、読み手にとってはわかりやすい構成になっているものが多いです。

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<US2016/0255852 (不二製油株式会社)> 


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<US2016/0255852 (不二製油株式会社)>


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<US2016/0255852 (不二製油株式会社)>


 ですが外国出願人が書く公報では、「課題」「効果」「実施例」についてわざわざ項目立てをして記載されているケースは多くありません。

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<US2016/0325921(K-FEE SYSTEM GMBH (DE))>


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<US2016/0325921(K-FEE SYSTEM GMBH (DE))>


 この「項目分けすらされず課題も解決手段も効果も実施例も全部ひとまとまりにして書かれている」ものが外国の公報(特に外国出願人が書く公報)に多く、「どこに何が書いてあるのかわかりづらい」ことが、「外国の公報は読みづらい」と感じる人が多数発生する原因になっていると思われます。


3.外国特許公報の読解テクニック

 このような「外国出願人」が書いた「どこに何が書いてあるかわかりづらい」公報を読む場合、「公報の内容を理解」するにはどのようにしたらよいのでしょうか。
 公報の内容を理解するということは、前述したように、「①従来の技術において」存在していた「②何らかの課題・問題」を「④解決」するため、「③今回用いた方法を開発した」という流れを把握することです。言い換えればどのような技術分野で、従来技術にどのような問題点があり、その問題を解決するためにどのような手段を用いたか、というところまで一貫して読み取ることができれば「公報の内容を一通り理解した」と言えます。それでは上記のものを読み解くためのヒントについて見て参りましょう。


3-1 各項目の在処を探すためのキーワード

 「①従来の技術」「②課題」「③今回発明した方法(手段)」「④解決(発明の効果)」の各段階でよく使われるキーワードがあります。このキーワードの周辺を読むことによって各項目を大体理解することができ、一通りの流れをつかむことができます。ここでは英語の公報を例に挙げます。
 例えば、「②課題」では、「従来の技術を用いることによりどこに問題があったか」ということが話題となっていますので英語であれば「problem」「disadvantage」「drawback」「desire」等の「問題点」「欠点」に関する語句、今までの技術について「こういう技術があるけれど、でもね…」と語るための逆接の接続詞「However」、ストレートに発明の目的を語る言葉「The object of this invention…」などが使用されます。

 「④解決(発明の効果)」に関するものでは、「improving」「advantage」等の「効果」に関する語句、またはストレートに「The effect of this invention」と記載されていることもあります。
 また、各項目の内容の出現頻度が高い場所があります。例えば、「①従来の技術」「②課題」は「今回の発明に至った背景」に関することですので「背景技術(Background art)」に書かれることが多く、「③今回発明した方法(手段)」は公報の中心的な話題となりますので「請求項」および「本文中の“サマリー”部分」にその概略が書いてあることが多いです。「④解決(発明の効果)」については各実施例があればその実施例中で「効果測定」「評価」を行っている部分に示されていたり、本文中に潜む一文の中にさらっと書いてあったり、ということが多いですが、「ここを見れば確実に書いてありそう」というものがないため、効果の記載を探すのに苦労することがあります。


3-2 実例

 例として、「カカオ豆(cacao)からココア(cocoa)の粉を精製する方法」に関する文献「US2018/0295853」について、全体的な内容把握を行う場合を想定します。(ここではJ-PlatPatを利用しています。)

 試しに「②課題」に関するキーワード「problem」をハイライトさせます。
(※ハイライトはブラウザの機能を利用しています)

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 上記赤枠で囲った部分(「②課題」に関するキーワードの直前の段落)に「①従来技術」の例が述べられています。


WO 2010/073117 discloses a method for processing cocoa beans comprising the formation of a suspension comprising cocoa beans or nibs and water, wet grinding the suspended beans or nibs, heating the suspension, and decanting the same such that said suspension is separated into a water phase, a fat phase and a solid phase, in order to avoid liquefaction of the cocoa fat and formation of a chocolate liqueur during mechanical processing.
— US2018/0295853 (ODC Lizenz AG (CH))

(カカオ豆またはカカオニブを水の中で粉砕して加熱し、水に溶ける部分と油分に溶ける部分と固体を分離する方法)

 この「①従来技術」に続く段落(上記赤枠で囲った部分)にて「②課題」に関する記載がされています。


However, the problem of providing a method for processing cocoa beans which allows to manufacture cocoa products that are characterized by a pleasant taste and at the same time comprise favorably high amounts of nutritionally beneficial and valuable components of the unfermented cocoa fruit, such as e.g. polyphenols, antioxidants, vitamins and/or sugars, has hitherto not been adequately addressed.
— US2018/0295853 (ODC Lizenz AG (CH))

(芳醇な風味かつ栄養素豊富という2つの特長を両立するココアパウダーを作る方法については今まで十分に開発されてこなかった)

 続いて、(「①従来技術」の「②課題」を解決するための)「③今回発明した方法」を探るため、請求項および本文中の「Summary」をチェックします。

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A method for processing unfermented cocoa beans, comprising the steps of:
(a) adding water to said unfermented cocoa beans with or without cocoa pulp and mucilage to form a suspension;
(b) wet grinding said suspension;
(c) subjecting said suspension to a heat treatment at a temperature of 70° C. or less;
(d) separating the suspension into a water phase (heavy phase), a fat phase (light phase) and a solid phase, said fat phase comprising cocoa butter as a major component and solids and/or water as minor components and said solid phase comprising cocoa powder and water; and
(e) separately processing the three phases, which optionally comprises:
separating cocoa butter from the fat phase,
separating cocoa powder from the solid phase, and
separating cocoa aroma and a polyphenolic powder from at least the water phase.
— US2018/0295853 (ODC Lizenz AG (CH))

((a)カカオ豆に水を加える工程、(b)水中粉砕を行う工程、(c)70℃以下で加熱する工程、(d)水相、油相、固相に分離する工程、(e)分離した3つをそれぞれ処理する工程)

 「②課題」(ココアパウダーを作る方法)に対し、請求項の記載にココア豆を処理して粉にする方法がそのまま書かれており、これが今回の「解決手段」に相当するものと考えられます。

 さらに、本文中のサマリー(SUMMERY OF THE INVENTION)を覗いてみると、同様にココア豆を粉にする製造方法の概略が記載されており、この部分が今回の発明のキモになるものと考えられます。

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Generally speaking, in one aspect the present invention provides a method for processing unfermented cocoa beans, comprising the steps of: adding water to said unfermented cocoa beans to form a suspension; wet grinding said suspension; subjecting said suspension to a heat treatment at a temperature of 70° C. or less; separating the suspension into a water phase (heavy phase), a fat phase (light phase) and a solid phase, said fat phase comprising cocoa butter as a major component and solids and/or water as minor components and said solid phase comprising cocoa powder and water; and separately processing the three phases, which optionally comprises: separating cocoa butter from the fat phase, separating cocoa powder from the solid phase, and separating cocoa aroma and a polyphenolic powder from at least the water phase.
— US2018/0295853 (ODC Lizenz AG (CH))

(請求項1とほぼ同様のことが記載されている)

 続いて、「④解決(発明の効果)」を探るため、「advantage」という語句をハイライトします。

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 「advantage」の語句が何カ所かで出現しますので実際に読んでみるとこの赤枠の部分が「芳醇な風味かつ栄養素豊富という2つの特長を両立するココアパウダーを作成する」という今回の課題に合致します。


In a preferred embodiment, the cocoa pulp and mucilage obtained in the depulping step is processed separately from the unfermented cocoa beans and subsequently added to the suspension before or during steps (a), (b), (c) or (d). In an alternatively preferred embodiment, the pulp may be re-introduced at a later stage as a natural sweetener, so that advantage is taken of its relatively high sugar content. Advantageously, said approaches allow a maximum amount of the nutritionally beneficial components of the pulp and mucilage to be reintroduced into the intermediate products, extracts and final cocoa product and allow a variable fine tuning of the flavors in the extracts and the final product. The pulp and mucilage to be reintroduced may be derived from the same cultivar as the cocoa beans, which may be advantageous e.g. if the extracts and/or the final cocoa product is intended to be a pure-origin product.
— US2018/0295853 (ODC Lizenz AG (CH))

(カカオ豆の脱パルプ化工程で得られたパルプ部分と粘液(mucilage)がカカオ豆と別々に処理でき、処理工程(a)~(d)のどこの段階でもそのパルプ部分等を添加することができる。特に、処理工程後段でパルプ等を入れることで風味が増し、糖含有量も多くなる)

 ここまでをまとめると、「芳醇な風味かつ栄養素豊富という2つの特長を両立するココアパウダーを作る」方法に課題があり、請求項またはサマリーに記載されていた方法を用いることで、風味が強く糖の含有量が多いココアパウダーを製造することが本発明の要旨ということが読み取れます。


4.おわりに

 特に普段読み慣れていない人にとって、外国文献はとっつきにくいものに感じるかもしれません。しかし、「自分が知りたい情報は何か」「それを知るにはどこを見れば良いか」ということを頭の片隅に置いておくことで、心理的にも物理的にも少しは読みやすくなるのではないでしょうか。今回は触れませんでしたが外国文献を読む補助となる翻訳サイトなどもありますので、使える物は積極的に使い、負担をできる限り減らすことで楽に公報の読解ができるようになるかと思います。

調査事業部 工藤


【参考】
・ J-PlatPat   (参照日 2019年11月19日)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0000

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