宮城伊坂幸太郎編
タクシーを予約した。ホテルの前にとまって待っていてくれた車に、
「さとうです」と言って乗りこむと、
「かとうと言います」
と返ってきた。
昨日は真っ黒で見えなかった景色が見えた。
川があったのだ。
かとうさんは運転しながら、
「この天気なら観光日和だね」
と声をかけてくれた。
そういえば眠りに落ちる直前に少しだけ部屋が揺れた。
アーケードが狸小路よりもうんと高い。しかもたくさんある。福岡にも札幌にも同じことを思う。ここは滞在できる場所が開いていなくて、しかも点々とかたまりであってくれていて、かなり透明に居ることができるんじゃないだろうか。
誰も自分のことを知らないことに安心すると語ったのは誰だったろう。
帰っても別に私は有名じゃないほうなんだけど、仮に未踏の地で暮らしたところで、結局すぐに知られてしまうのだろう。駄目なところもそれ故になぁなぁなところも。
それでもここでは本が読める。帽子も帰る。傘だってさせる。
音楽が要らない。夕飯も要らない。めいいっぱい使った足だけが痛い。
その代わりに、煙草が当たらないようにという配慮がどうしてもできていた3人家族のお父さんの手首の曲がり方を見た。
ふと左を向けば、若き警官ペアと怪しい人が握手をしていた。ものすごくお礼を言っていた。
ゴールの舞台とその周辺は、よさこいの人たちのものだった。でもそのおかげで食べることのできた10円パンがあたたかい。
仙台の牛タンはどんな味がするのだろう。
列に並ぶ、前のお兄さん2人のモー娘の話に入りたかった。
並んでいるすれ違いざまに、今までで一番美味しかったって言って帰ってくれる120点のお客さんの声を聞いた。
電気を拝借して、そうしてこれを書いた。
仙台短編文学賞、募集しているのか。
おしまい
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