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『人間みたいに生きている』

携帯電話が許されたのは周りの比べてかなり後になってからで、あれは人生唯一本気だった受験勉強が始まるひとつ前に起きた。モバゲーの小説である。

理不尽サバイバルデスゲーム好きは何度も語っているが、『王様ゲーム』の系列で、もうタイトルは忘れてしまったが、洋館に少女が監禁される小説を読んでいた。

そんなのを読んでいるのは自分だけだと思っていたが、のちに隣で猛勉強することになる友達も読んでいたことを最近知った。

洋館といえば亀梨くん金田一少年の事件簿スペシャルと、自分が周りにしていた安易な驚かせ話が思い出される。

この物語は、最近読んだ朝井リョウ『正欲』に近い。ゴシックオカルト版といったところだろうか。佐原ひかり『ブラザーズブラジャー』を読み薄くなった私の、私による必要感はさらに薄くなることになった。当然だし、仕方がない。私だってあきらめない。

私は佐原さんの文章の、言葉のひらき具合や言葉の灰汁と比例しない透明度が好みだし、詩的なところがなく分かりやすさから逃げないところが自分の頭に痛い。

風景描写も主人公のひとり語りにて「どうして分かるの? 知っているの?」ということを客にハッとさせる言語化をすることも作家の資質なのだと理解している。

理解しているが、この度身に染みたことは、作品群がどれも、あの猛烈に勉強していた高校生の私が、担任のせいで一瞬憧れかけた「小学校教諭」そのものだということだ。佐原さんの書く文章は、陳腐と説教の、そうじゃない方の際に立っている。本物の知覚が、不自然さなしにどんどんどんどん流れてくる。

女子校で6年間を過ごした。前述の友達と「アホい」日々を過ごしていた。果たして、本物っていたのだろうか。いまはどこにあるのだろうか。今も、過去にも、本物を探し、求め続けている。

#人間みたいに生きている #佐原ひかり

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