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格好

おへそとられないようにね。
はい。

怒りをぶつけられるのは久しぶりだった。体が強ばり心臓が上に持ちあがる感覚は、頭がこれが初めてじゃないよ!という信号を、握りしめた手に向かって出してくれる。少し落ち着きを取り戻して、言葉のやり取りをして、受話器を元に戻した。

フォローとアドバイスをいくつか受け取って、部屋を出る。ここから練習が始まる。

ステップは踏める。もう恥ずかしくないからここにいる。いつものように遅れてくる三上さんは違う。決められていたはずの体の置き場も、視線も、時間もぜんぶ三上さんのものになる。顔。恍惚のほうから三上さんに笑いかけている。私の3ヶ月をきっと、もっとずっと、遥か前にやっていたのだろう。音をとる耳を、とは言わない。ばらばらに動く体をすぐに、とは言わない。せめて眉根だけでも真似することができたのならば、私の日常は変わるのだろうか。

電車に乗る。日能研の中学受験問題を眺め、時に解き、家に帰る。

例えばスマート・ホンを落としたときに、
おとしたものは大抵返ってくるからね!
信憑性はおいておいて、言ってほしいとき、言われてすごーく救いになるときがある。

空にはカラカラに明るい、太陽に一番似合う水色があって、もっと私のほうには、黒い雲がせまっていた。

何色を仰ぎ見ているのか、草履を履いて上空を眺める三上さんがこちらを向いた。

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