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パブリック・ギャングスタ

空き缶を蹴り飛ばし、大通りに出る。

アジア。南米。中東。黒人。人種の坩堝を男が分断していく。露店の品物を崩し、往来を乱す。売り物を踏まれた男が怒鳴り、向かいの女は悲鳴を上げる。子供が顔を上げ、老人が目で追う。男が割った人海を、泳ぐように掻い潜る。前方に警官の姿。

「取り押さえろ!」

俺の声に反応し慌てて向き直るも、男は走る勢いのままタックルを仕掛けた。もみ合う二人から視線を逸らさず、一気に距離を詰める。男が警官を引き剥がす。右手に銃。警官のホルスターは空だ。つんのめるように減速し物陰に隠れる。警官はまだ呻いている。男は銃口をあちこちに向ける。息が荒い。

男が拳銃を掲げ空に向かって発砲した。乾いた銃声が市場に響くと、人々が悲鳴を上げ蜂の巣をつついたように逃げまどう。男は踵を返し走り出した。

「民間人の誘導を!」

警官に指示を投げ、男を追って路地を曲がる。入り組んだ一本道を注意深く進むと、袋小路に立ちすくむ男が見えた。懐から銃を抜く。

「銃を捨てろ!」
「俺は何もやってねえ、ブツを運んだだけだ!」

弾かれたように振り返った男の目は血走り、向けられた銃口は泳いでいる。ヤクか。この距離なら大丈夫だ。俺は致命部を避け、狙いを定めるとーー轟音が鳴った。

違う。頭上だ。見上げると壁やガラス片と共に、大質量が降ってきた。袋小路の男目掛けて。反射的に駆け出そうとしたが、巨躯が男を取り押さえる方が早かった。慣れた手つきで銃をもぎ取り男の腕を拘束する。身長196cm。混血を思わせる浅黒い肌。逞しい両腕には闘牛士のタトゥー。

「やったな、ビックブラザー」
大きな手がばしんと俺の背中を叩いた。
「やってくれたな、お前も」
咳込みながら大男に背を向け、通信機で状況を報告する。
「逃走犯を確保。それと…改築の問い合わせが一件」

出向二日目。バディ結成後初の大捕物。風通しが良くなった二階から、唸るような風音が俺たちの間を抜けていった。



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