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終末、駆けるは番の刃

 速度計の針は200kmをとっくに振り切っている。
 しがみつくような体勢は、慣れてくると抱かれているようで心地良い。

 フルカウルの大型モーターサイクルは、斜陽の業界の中、起死回生に放たれた斬新すぎるデザインとスペックで、辛うじて残っていたユーザーにも愛想を尽かされ業界のトドメになった格好だ。
 全長2505mm、350馬力、専用スーパーチャージャー、直列6気筒、総排気量2650cc、公道用。完全にアホ。だけどロボットに変形しそうな、鋭角だらけの馬鹿馬鹿しいフォルムは嫌いじゃない。

「待ちやがれ、このサムライ野郎が!」

 金魚の糞のように後ろにへばり付いている6輪バギーから罵声が飛んでくる。俺は後ろから見える最小限の動きで、チョイチョイと右を親指で指差し、僅かに重心を右に傾けた。

「何をーーーおわっ!?」

 次の瞬間、極太の迎撃レーザー光がさっきまで俺たちのいた直線上に迸った。バギーは危機一髪避けた。残念。
 レーザーに均され走りやすくなった道で、さらに速度を上げる。前に見えてきたのは、菱形の頭に有機的な、だが地球上の何にも似つかない3本の足が生えた奇妙な機械。あれもビーム同様、迎撃用の兵器のようだ。透明の菱形装甲の奥にチカチカと光が瞬く。

 そうそう、なんで俺がサムライ野郎って呼ばれてるかって?そりゃあ、こいつを見てもらえれば分かるさ。
 バシュウ、と圧縮空気が抜ける音と共に車体の両サイドの展開したのは一対の刀。刃渡り2mの大業物。こいつも完全にアホの産物。

 ビームに削り取られハーフパイプ上に形状を変えた渓谷で、俺は勢いよくバイクを円弧の斜面に躍らせた。刃文が虹色に淡く光り、有機足を一閃。いい切れ味だ。

 ガラクタに成り果てた3本足に構わず、俺はバイクを走らせる。目指すのは狂ったオーロラを放ち続ける、透明の大ピラミッド。
 人類を絶滅一歩前まで追い詰めた、この星の新たな支配者だ。

【続く】

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