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#文体の舵をとれ #文舵練習問題9

「レモンシャーベットが好きだった。母の作ってくれる、お手製の、レモンをそのままボートみたいにくりぬいて、ミントの新芽が浮かべてあるの」
「お母さんはあなたのことが好きだったのね」
「それは……そうかも。でもわたしは母のことが好きになれなかった、どうしてもね」
「でもレモンシャーベットは好きだった?」
「ええ、そう。大好きだった。皮の苦みが口の中をさっぱりさせて、はちみつと砂糖のすっきりした甘味」
「もう一度食べたい?」
「いえ、でも、もう、母は亡くなっているから」
「あなたが自分で作ってみるのはどう? 家にある道具で、当時の味を思い出しながら」
「わたしが? まさか、」
「料理は嫌い?」
「いえ、好きよ。でも甘いものって作ったことがないな、難しいから」
「簡単よ、きっと、家にレモンの木があるの。今度果実を持ってくるね」
「いいの?」
「ええ、食べきれないほどできるから」
「楽しみだな。そろそろ時間かな?」
「ええ、お迎えに行かなきゃ」
「今日はわたしが払うね。前おごってもらったから」
「うん」
「忘れ物ない?」
「ない。行こっか」

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