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非実在少女の身体と精神

 メリッサには顔がない。顔を構成するパーツがごっそり欠けている。目も鼻も口も耳もなんにもない。ママが言うには「たまごみたいにつるんとした顔でかわいい!」だそうだ。目も鼻も口もなんにもないけど、メリッサは色を見ることができるし、匂いを嗅ぐこともできたし、味わうこともできたし、あらゆる音を鋭敏に聞き分けることもできた。それだけじゃない。ママと弟のナオ以外の人間は、みんなメリッサの顔の上に自分の思う顔をのせて見ているみたいだった。つまりメリッサののっぺらぼうは、万人のために開かれたキャンパスみたいなものらしい。

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