2020年5月30日の日記
夫がイオンで買ってきた値引きのアメリカンチェリーを洗うのが面倒だったのでそのまま食べた。草の味がした。草原の香り。牧草の香り。
子供のころ小学校の敷地にやまぶどうが生えていた。手あたり次第、ときにはフェンスに上って、ちぎって食べていた。おいしかったから。時たま勝手に醗酵してアルコール臭を漂わせているぶどうもあったが、大半は酸っぱくて美味だった。
ときどき学校の敷地に除草剤が撒かれる。草を触ってはいけませんよ、といわれたときに、興味本位でいつものようにやまぶどうをとって食べたことがあった。いつもより野草っぽい匂いがする気がした。
大人になって気がついたのだけれども、私が野草の匂いだと思っていたのは、除草剤の匂いだったのかもしれない。枯草の上で転がった時にツンと鼻をつくにおい。
木から落ちた葉は秋が深まるたびに発酵し、甘酸っぱい芳香を放つようになる。落ち葉の香りは菌類が広げる菌糸のにおいも混じって、複雑な香りがする。
でもグラウンドを覆う草を刈った後のあの青々した匂いは、ぴりっとした刺激と隣り合わせの匂いだ。
以前農協で買ったイチゴが、草の匂いだったことがあった。とても食べられなくて捨てた。そのときふと、私が今まで草の香りだと思っていた匂いは、除草剤の匂いだったのかもしれない、と思った。
こどものころオレンジの皮をしがんでいると、やめなさい、とたしなめられたことがあった。輸入オレンジの皮がかぶっている防カビ剤は、強い発がん性が認められているのだという。そんなもの食べさせるなよ、うべえ、と思った。
毒は毒らしい味をしていない。というのを身をもって知って以来、なんとなくものごとが信用できなくて、それでもまぁ今は生きているからいいか、という気持ちで生き始めて三回目くらい。だいたいなんかあるたびに世界が信用できなくなるし、しかし根拠のない信頼はないよりもあったほうがいい。それはそう。ぜったいにそうなので、いつもその両端の間を揺れている。
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