#文体の舵をとれ #文舵練習問題その5
疾走する二本の槍を金斗雲に乗って追跡する。障害物を避けながら中国の山水画に似た景色の中を走り抜ける。金色の槍を幻術で惑わし、失速したところをとらえる。手に入れると槍は意思を失った。「所有」することに成功したようだ。残るは銀色の槍だ。
ルーは竹林の中を、砂丘の影を、落下する滝の裏側を、槍を追い詰めるために走る。身体が風と同化していく。駆け引きの末銀の槍を袋小路へ追い込んだ。廃坑の奥の奥。逃げ道はふさいだ。掴むだけだ。
笛が鳴る。時間切れだった。VRゴーグルを外し店主に古銭を支払う。ダウンタウンでは電子通貨を狙った電脳スリが横行していた。低所得者ほど紙幣や古銭に頼って生活しているし、日雇い労働の対価は古銭だ。二本の槍を手に入れることができたら、一か月無料で遊び放題になる通行証がもらえたのに。没入式のゲームは没頭するあまり時間を忘れてしまう。日が落ちた空はネオンサインで照らされている。
生活排水が垂れ流され油や泡の浮いた川面に浮かべられた船の群れ。その中の一艘に帰る。ここがルーの家だ。小型の船を乱暴に繋げただけの町。数年前火事が起こった時は逃げ遅れて何人もの犠牲者が出た。死者を悼んで水上の町は表立っては規制されている。いつ立ち退きを迫られるかわからない。でもこんなの間違っている。水上の違法建築を規制するよりも法外な敷金や礼金を規制するのが先のはずだ。それを優先しないということは、単純だ。都市に貧乏人を受け入れたくないのだ。自らを歓迎してくれない町。弱みを見せたら叩きだされてしまう。負けるわけにはいかない。疲れ切った体を少しでも休めるために。明日も働かなくてはならない。眠らなくては。
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