#文舵練習問題その4 #文体の舵をとれ

問1 語句の反復使用

 シンディローパーが歌ってるよ。と相方が袖を引くので駅のホームの隅っこをちらりと見やると、路上泊の女性が大きな声で歌っている。歌声はまるっきりシンディローパーには似ていなかったけど、大げさな身振りやときおりクシャっとゆがめる表情なんかはシンディローパーと言えないこともなかった。
「あれはシンディじゃないよ。ただの人だよ」
 私が言うと相方は残念そうに、でもちょっと似てたよね。という。シンディローパーがこちらの会話に気がついたのか、タイム・アフター・タイムを歌ってくれる。あんまり似ていない。けど嬉しかったから、持っていたお総菜パンを「歌、よかったよ」といってシンディローパーに手渡した。シンディローパーは素で、ありがと。と言った。

問2:構成上の反復 

 目が覚める。アラームを止める。時計を見ると朝の七時だった。カーテンを開けると体中の時計がリセットされた感じがする。日差しが憂鬱まで焼き払ってくれる。あなたは身支度を整えて家を出る。途中まで近所の猫と一緒に通学する。やがて幼馴染と合流する。ふたりで昨日の歌い手のライブ配信の話をしながら歩く。

 目が覚める。アラームを止める。時計を見ると朝の六時半だ。あなたは眠い目をこすり弁当の支度をする。子供たちを保育園に連れていく。離婚した夫が買ったチャイルドシートは、そろそろ長男の成長に追い付けない。新しいのを買うしかない。元夫に相談したら買ってくれるだろうか。ダッシュボードから降り注ぐ陽光に目を細め、あなたはサングラスをかける

 夢を見ているような気がする。アラームを止めようとあたりを見回すけど、あなたの手の届く範囲にスイッチはない。離陸をカウントダウンするみんなの声が聞こえる。モニターをとおしていろいろな人の表情が見える。時計はNY時刻の午後16:00。あなたはこれから十六人の船員と数年間を宇宙で過ごさなければならない。緊張で体がこわばっている。だけど同時に、なんとかなるはずだ、これからきっと素晴らしい出来事が待ち受けているという予感もしている。あなたがウェイクアップコールに選んだ歌はとなりのトトロだった。あなたはすぐに後悔する。小学校の給食の時間を思い出すからだ。

 夢の中のあなたはしばらく目覚めることがない。私はそっと棺の中でうるさいくらい鳴り響いているアラームをそっと止める。あなたはもう目を覚まさなくてもいい。あなたはもうずっと朝寝坊したままでいい。棺の中の酸素が失われていく。あなたは夢を見たままこの世から遠のいていく。

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