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#文舵練習問題8 #文体の舵をとれ

 サラは異国の地でひとり大学に通っている。日本のアニメや文化が好きだった。漫画学科のある大学に進んだ。憧れていた土地は直ぐにメッキがはがれていった。毎日これ以上日本を嫌いにならずに済みますように、と祈るように暮らしている。サラはコンビニでバイトをしていて、土日は長い時間レジに入っている。今日も忙しい時間が終わり、フードコートには青年がひとり少額の買い物で長時間居座っている。あの子はいつもそうだ。新はテスト前だから焦って勉強していた。これ以上母に心配をかけたくない。そんな日に限って騒がしい団体客が入ってくる。軽装の大学生たち。一足先に店内に足を踏み入れた木崎は新たに軽く目をやり、雑誌のグラビアを見て顔をしかめた後、入ってきた女たちと会話を交わす。大木綾香は頭の中で必要な物資を一通り整理し、いかにも迷っているようなたどたどしい足取りで店内を歩き回る。頭の中では最短経路が導き出されている。酒井は自分のために清涼飲料水を確保する。酒井は炭酸やアルコールが飲めない。酔った人間も嫌いだ。母親を思い出すから。レジには肌の色の浅黒い、エキゾチックな顔立ちの女が入っている。どこかで見たことがあるような、不意に近づいてきた木崎が酒井の耳元であざ笑うように言った。「なんや、こういうのが好みなん」カっと頭に血が上る感覚に眩暈がした。
「そんなわけないやろが、どこに目ぇつけとんねん」
 レジの外国人の容姿をののしる言葉が口から出た。自分でもその烈しさに驚く。周囲が酒井の言葉を否定せずに同調したことで、敵意だけがぽっかりと宙に浮かんだようだった。いつの間にか合流していた大木も口撃に加わっている。なのかがおびえたような顔つきで少し後ろから仲間を眺めている。サラは心のシャッターを閉ざして淡々と業務を続ける。思い上がった日本人の言動にはずいぶん慣れた。こういう人たちは。きっと世界中のどこにでもいる。自分が住んでいる世界が大文字の世界のすべてだと思っている人たち。いまさら責める気もわかない。大学生たちが出て行ったあと、新は慌てて荷物を集め、足早にコンビニを立ち去った。

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