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特許出願技術動向調査の活用法②

全個体電池の調査結果をもとにした具体的な分析

今回は、具体的な事例を用いて、調査結果をどのように読んだらよいかを説明していきます。これは、あくまでベンチャー企業、事業会社の人間がどのように活用するか、であって、純然たる特許調査機関や特許事務所がどのように使うかという話ではないです。あらかじめご注意を。

特許出願技術動向調査そのものの説明は前回の記事をご覧ください。

どのようなコンテンツが入っているか

まず、調査結果にはどのようなコンテンツが入っているかを見てみましょう。令和6年3月に発行された全個体電池に関する結果の目次を見ると、このような形になっています。

  • 第1章 調査概要

  • 第2章 市場環境調査

  • 第3章 政策動向調査

  • 第4章 特許出願動向調査

  • 第5章 研究開発動向調査

  • 第6章 提言

詳細は一つ一つ後で見ていきますが、関連技術で事業計画を作る場合には市場環境調査や政策動向調査の部分が、技術開発の方針を決定する場合には特許出願動向調査や研究開発動向調査を見ることが近道です。

どのように活用するのか

具体的にそれぞれの章に書いてあるものから、どのように活用するのかを見ていきたいと思います。ちなみにですが、これから記載することをめちゃくちゃ要約したものは特許庁がパンフレットという形で出しているので、お時間が無い方はこちらをご覧ください。

第1章 調査概要

調査概要の章には、調査目的や調査対象範囲が記載されています。比較的一般的な全個体電池に関する背景と、調査するにあたってどのような範囲を調べているか、逆にどのような範囲を調査していないか、が記載されていますが、ここに書いてある技術俯瞰図はとても勉強になるし、他社に自分の技術を語る上で自社の領域が分かりやすく説明できるようになるので、必読だと思います。

全個体電池の技術俯瞰図

ここで全個体電池の技術俯瞰図を引用します。全個体電池に限らず電池全般に言えることですが、正極材、負極材とセパレータの3つの要素が基礎技術としてありますが、その上にセルにしたりモジュールにしたりする技術、パック化する技術や全体を制御する技術があって最終製品になるので、そのような流れもわかります。
更に基礎的な部分を見ると、材料ぞのものの技術や設計製造に関する技術によって支えられていることもわかります。

例えば、自社が全個体電池の正極材に関する技術を保有しており、それをVCや銀行に資金調達を相談するためや、助成金を申請するために技術的な領域の説明をする際に、この図を引用し、全体の技術領域の中で自社がどの部分を担っているのかを説明することができます。また、他社とアライアンスを組むときに、近い領域の技術をもつ企業とアライアンスを組むことで(ex.正極集電体+正極合材=正極)より完成品に近い形で製品を提供することができるようになること、逆に遠い領域と組み合わせることで、互いの弱点を補うことができることなどを説明することができます。

第2章 市場環境調査

市場環境調査では、市場規模の変遷や、主要各社の開発状況が記載されています。ここは純粋な特許調査結果というよりは、ニュースやプレスリリースレベルでの調査内容がまとめられているものになります。
例えば、全個体電池の場合では、

科学技術分野において欧州最大の応用研究機関であるドイツの Fraunhofer 研究機構が2022年4月に発行した「Solid-State Battery Roadmap 2035+」にて、2021年の全固体電池の生産量は、2GWh/年以下と報告している1。

特許出願技術動向調査(全個体電池)

のように、市場規模の調査結果があったり、

IoT 機器や電子基板内素子などの小型用途には、酸化物系全固体電池が用いられることが想定され、量産開始もしくは量産一歩手前まで開発が進んでいる。TDKが2020年2 月から、FDKが2020年12月から生産を開始している。

特許出願技術動向調査(全個体電池)

のように、どの企業が商品化にこぎつけているかなどが分かります。
ここに書いてあるような情報は、正直この分野に専門性を持つ企業の開発者であればなんとなく走っているだろうレベルのものですが、例えば論文を書くためや、助成金申請書類の競合比較情報を書く際に、一つ一つ事実確認をするとかなり時間を使ってしまうので、こういう情報を(ルールを守って)引用することで、精度良く、またスピーディに資料を作成することができます。
それ以外にも、ヒアリング対象としてどのような企業にあたるべきか?採用戦略を練るにあたってどこで母集団を形成するか、形成できそうかを予想することができます。特に大学発ベンチャーなどで事業会社とのつながりが薄く情報が無い中だと「こんな人材日本のどこにいるんだ!?」となってしまう場合は結構あるので、そういう時に役立ちます。

第3章 政策動向調査

政策動向調査には、日本と海外の政策動向が記載されています。例えば、

「グリーンイノベーション基金事業」が創設され、2022年度から蓄電池に関するグリーンイノベーション基金事業として「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」が開始された。研究開発項目に高性能蓄電池・材料の研究開発が含まれており、全固体電池の早期実用化や高性能リチウムイオン電池の材料技術の開発を目標としている。

特許出願技術動向調査(全個体電池)

というようなものがあります。このような情報から、例えばこの基金事業に絡む形で進められれば国の資金を使って開発することも可能になるかもしれませんし、このような基金事業に参画している企業とアライアンスを組むことで、二次委託のような形で入ったり、最先端の情報を取得することができるかもしれません。

欧州では、2017年10月に欧州域内のバリューチェーン創出のために、欧州委員会と欧州投資銀行、EU加盟国の支援の下、「欧州バッテリーアライアンス(EBA:European Battery Alliance)」が設立された。バリューチェーンに関わる研究開発プロジェクトに対して補助金を拠出する取り組みが実施されており、「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI:Important Projects of Common European Interest)」が採択され、数年間で60億ユーロが投入される見通しである。

特許出願技術動向調査(全個体電池)

海外情報では上記のようなものが記載されており、例えば米国と欧州だとどちらがどのようなものに重点を置いているのか、資金としてどちらが多く投入されているのかなどが分かります。例えば、シリーズB, Cでは、海外の投資家からも資金を入れる可能性が出てくるので、海外市場としてどの国を狙っているのか?そもそもどの国のVCからお金を入れてもらってハンズオンしてもらうと事業拡大が狙えるのかなどを検討する材料になります。
また、これまで見てきた他の情報と同様に、採用する場合に海外人材を探すならどの国にあたるべきかなどの指針を得ることも可能です。

ただし、この調査結果は、X年にこの分野の調査をすると国が決めたものに対して、X+1年に実際に調査を行い、X+2年に発表されるものですので、少しタイムラグがあり、本当の最先端を行く企業にとっては、このあたりの情報は少し遅いかもしれません。

第4章 特許出願動向

いよいよ、ある意味本丸の、特許出願動向です。
特許出願動向、の中には、調査方法、全体の動向調査、各技術領域の調査、用途や種類、課題別の分析などが載っています。少しずつ見ていきたいと思います。

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