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あとがき、あるいは、まえがき

なぜ書く?

何を書く?

足りないを書く。足りないまま書く。
足らしめられなかったことを書く。
足らしめられないまま書く。

私は──

その後に続くのはいつだって後悔だ。自己防衛だ。逃避行だ。

私は何も変わらない。あの日から何も変わらない。罪も。悪も。悪意も。何も変わらない。

愛を描ける立場ではないから、悪意を書いた。けれどもその《悪意》は、本当の悪意を欠いていた。

頭が痛い。


冬が来た。
かじかむ手で打つ言葉。初めは誰のためだったのだろう。かじかむ手をあたためる術を持っていたのはいつだろう。

飲めないブラックコーヒーを流し込む。眠らないためだけに。喉に尖った苦味が刺す。酸味。馥郁とした甘味。私の黒と混ざり合うことはない。

黒──えずく程の黒。泣く程の黒。足りない程の黒。成し遂げられない程の黒──。

これは小説ではない。
あとがき、あるいは、まえがきである。

何かが終わった後のあとがき。
何かが始まる前のまえがき。

終わってしまった後のまえがき。
始まってしまった前のあとがき。



2023年12月9日 薊詩乃

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