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市営バス再生で“ 超クルマ社会 ” に風穴 「誰でも自由に移動できるまち」へ

はじめに
「うちのまちはクルマ社会だから」そう言ってクルマを運転できない人々の移動の自由を諦めていないだろうか?

栃木県小山市は超クルマ社会。小山市民の移動手段の69%がクルマ、バスはたったの0.3%だ(2018年調査より)。昔は路線バスが走っていたが、マイカー普及とともにバス利用者は減り、儲からない民間路線バスは2008年に撤退した。市内のバスは市が運営するコミュニティバスのみ。どの路線も1時間に1本あればいいほう、お世辞にも便利とは言えない。まちの人からは「バスってダサい、お年寄りが乗るもの」と思われていた。

そんな状況から、「クルマなしでも誰もが自由に移動できるまち」を目指してプロジェクトは始動した。

プロジェクト始動
きっかけは国の交付金。冒頭の思いを込めたバス改善プロジェクトの案が選考を通り、2018年8月に採択された。予算を確保し、小山市のバスは大きく動き出した。まず必要だと考えたのが、バスのイメージ刷新だった。バスに乗っていない市民にバスの存在を知ってもらうこと。気軽にバスに乗ってもらい、まちの人たちに「バスがある生活っていいね、豊かだね」と思ってもらいたい。実現するための作戦会議では「全市民向けの情報誌を作ってはどうか」というアイディアが出た。一方、「サービスが何も変わらないのに、新しい情報メディアを作っても意味がない」という指摘もあった。この指摘を受け、全線乗り放題定期券の導入にチャレンジすることにした。

(イラスト: @shiorin_grp) 解説:小山市で実現したいことをイラストレーター@shiorin_grpに依頼し作成した

市内バス全線定期券の誕生
「安い」と「全線」にこだわり、バスに”乗ろうか”、“ノロノロ”走るをかけて「noroca」という定期券を販売した。価格設定は従来定期券の7割引。しかも全線乗り放題。
導入への壁は高かった。市役所内からは減収リスクを危惧する反対意見が大きく、1年限定販売にして、収入を評価して販売継続を判断することで納得してもらった。結果、収入は減少せず、増収と利用者増に繋がっていることが確認でき、期間限定ではなく永続的に販売する定期券となった。定期券所有者数は導入前比約9倍の1,051人(2024年4月)。学生定期券は同約30倍の434人(2024年4月)、バスに乗る若者が増え、まちなかでバスを待つ若者が見られるようになり、まちに活気が出てきた。

解説:2019年にサービス導入した「定期券noroca」利用者から、「通勤や街ナカへの外出がとても楽になりました」、「お出かけの選択肢が増えた」、「通学以外でも小山市のあらゆる場所に出掛けられるようになりました」という声を頂いている。


小山駅前で、2020年開業のハーヴェストウォーク線への乗車を待っている若者たち。  


情報誌Bloom!
イメージ刷新の第一歩は、バス情報を関心の無い層に届け、興味を持ってもらうこと。バスに乗ろうと言っても手に取ってもらえない。そこで路線図や時刻表を情報誌に溶け込ませての情報発信を考えた。情報誌Bloom!の第1号はバスをメインにではなく、まちの情報誌に仕立て、暮らしに寄り添う魅力的なポットと路線図を紹介した。第2号では、時刻表を付録にバスを使った1日の生活を考えてもらう特集を組んだ。それぞれの号には市役所に感想や意見を出せる手紙をつけ、3号で、意見に対しての市の回答を丁寧に真摯に作成し掲載した。結果、Bloom!発行の度に手紙やメール等で大きな反響を貰い、バスの利用者の増加につながった。

解説:コアメッセージ「小山に生きる。おーバスが活きる。」を設定(クリエイティブディレクター片桐暁発案)、メッセージが伝わる記事を多く掲載し、表紙等のデザインにもこだわった。
解説:賞応募の際に使用したプレデンテーション資料から抜粋したもの。プロジェクトによる強調したい効果(バスに乗る人増加、市民との絆の深まり)を示している。


その後
小山市では、バスを便利にしようという機運が高まっている。市長や議会も理解してくださり、年間予算は約1億円から約2億に倍増している。また行政計画のなかでも長期的な投資が明記されている。地域公共交通計画(2023年2月)では「現役世代がマイカーではなく公共交通を選ぶサービス」を掲げている。7年間で3路線新設、13路線増便・大型化を実現し、利用者数は増加し続け、発展目標達成も視野に入っている。

解説:小山市内の路線バス利用者は、コロナ禍でも減少せず増加基調、公共交通計画では基本目標と発展目標の2つを目標値に掲げ、バスサービスの改善を続けている。


終わりに

本記事は、書籍「建設 未来への挑戦 国土づくりを担うプロフェッショナルたちの経験」に寄稿した、出版社の編集が入る前の原稿を許可を得て公表しています。編集者の手によってどう編集されたのか、他の記事が気になる方は、購入してみてください。


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