まにうける

【風雲ガチンコ文章指南録!?】『真に受ける力』⑳~『視点』ってなに? 安定の辛口きしみドライブ発動!! の巻~

ピアノ講師の林S子さんからお礼メールが届き、
続いて西山さんからメールが届いた。

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2007/10/30, Tue 02:25

きしみさん

中々お返事出せなくて申し訳ございませんでした。
主人の実家の事で急な用事が入りまして、私の実家に行くのも伸びてまだこっちにおります。
そのご連絡もしなかったので、わざわざ携帯にメール頂き感謝申します。

ずっとメール拝見させて頂きました。
最後のきしみさんからリカちゃんへの思いやりあふれるメールを読んでおりましたら、何だか有り難さで胸が熱くなりました。

本当に有難うございます。
きしみさんの深い愛情がヒシヒシと伝わってきて、すごく嬉しかったです。
今思えば、本当にお会いした事もないのにずうずうしいお願いを申し、ここまで親身になってくださってるお気持ちが大変嬉しいです。
リカちゃんは本当に素敵な出会いを頂けました。

もう秒読みですね。
しかし時間は宝物ですものね。
考えようによっては「まだ時間はある」。。。
どうか彼女に頑張って欲しいと祈るような思いです。

本当に有難うございます。
感謝・・・・

余談ですが。
リカちゃんはこの6月に大好きだったお婆さまを亡くされています。
リカちゃんのお母様も、近くに住んでいらしたお母様の介護にずいぶん長い間通われておられました。
先日のお母様からのお電話でも「寂しいです。」と申していらっしゃいました。
リカちゃん自身も寂しい気持ちでもいるのでしょう。

林 S子

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2007/10/30, Tue 23:20

きしみさん

西山です。ご指導ありがとうございます!

とても分かりやすくて、これで出来なかったら自分はどれだけできないやつなんだ! と思ってしまいます(汗
きしみさんに教えてもらった2点を特にしっかりと頭にいれておきます。

その2点の情景描写と心理描写に注意して書いてみました。

猫が家中を走り回っている。お目当ては一匹のねずみ。
ねずみは、人の目には見えない程の速さで逃げている。
逃げるんだったらもっと遠くへ逃げろ!はらはらして、じっとしていられなくなる。
胸の鼓動が高鳴る。
ねずみが家具の隙間に隠れた。猫は忍び足で探したが、見つからない。
じっとしてあたりを監視していたが、眠ってしまったらしい。
つかの間の休息だ。ねずみも猫が追ってこないと見てリラックスしている。
平和だ。何もないと物音一つない。こんなに静かなんて気づかなかった。
ねずみは猫が居眠りしている隙にお菓子を食べにいった。
「カシャーン!」フォークを落としてしまった!
捕まるぞ、早く逃げろ!一気に気分が高揚した。
案の定猫は飛んでいった。ねずみは一目散に逃げた。
はらはらどきどきするおなじみのパターンだが興奮させてくれるものはたまらない。

文章を「劇的、また文学的に表現する」のはとても難しい気がしました。

よろしくお願いしますm(..)m

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2007/10/31, Wed 02:28

西山さん

ご苦労様です!

情景描写はだいぶいいですね。
トムとジェリーをみているような
コミカルさは伝わってきます。

惜しいのは、もっと心理描写に
ウェイトを置いてほしいところ。
教授たちが重きを置いているのは
むしろ、そっちの表現力ですからね^^;

ただ、それは私の例の情景描写が冗長だったから
影響されたというのがあるでしょうね。
申し訳ないことです(汗

私は、曲を聞いたときの情景は、
西山さんにしか見えてない情景なので、
あまり簡単に描きすぎると、そのあとの
心理描写で言っていることの説得力が出ませんよ、
みたいに言って来ましたよね?

それはそうなんですが、
情景描写だけが濃く描かれても、
西山さんの気持ちの描写が少なければ、
西山さんが、どんな心理になったのかということの
伝導率は低いままになってしまうんです。

曲の聞き始め、聞いてる最中、
そして聞き終わったあと、
どんな時間軸の分け方でもいいんですが、
西山さんの気持ちの動きをもっと具体的に
自分で掴まえて表現してほしいんです。

もう一度、私のつたない例をみてください。

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【情景1】
一頭でも恐ろしい筋骨隆々のバッファローが、
黒々と群れをなし、濛々と砂煙を蹴立てながら、
怒涛の勢いで荒野を突き進んでいく。

【情景2】
一転。夕闇せまる荒野。
そこには傷つき、置き去りにされた
一頭のバッファローがいた。
もはや立ち上がる力さえ残っていないようだ。
怪我をした動物の運命は決まっている。
過酷な自然界の掟に従い、何ものかの食料となる。
それが現実。←(ここが洗練されてなくて冗長!)

【情景3】
夜。

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【心理1】
私の心臓は一気に跳ね上がり、
さらに加速度を増してゆく鼓動は、
バッファローたちの踏み鳴らす地響きと
重なっていく(ようだ)。
まるで私自身が一頭の獣となり、
全速力で駆け抜けているような疾走感。
体全体に力がみなぎってきて仕方がない。

【心理2】
私の中には、憤怒と、悲哀と、
誰を恨んでいいのかも分からない、
やるせない感情が一緒くたになって渦を巻いた。

【心理3】
やがて、何もできない歯がゆさは、
諦めにも似た気だるさにとってかわり、
胸の奥には、透明なのに、ずんと重くのしかかってくる
厚い雲のような虚無感が広がっていた。

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どうでしょう、400文字強になってしまってるんで、
洗練してしぼる必要はあるんですが、
現状のものでもこうしてタテわけてみると、
【心理】の方にじゃっかん比重があることが
わかりますでしょうか。

私の心が、テンションのあがる曲をきいて高ぶり、
その後、せつなさに包まれて、しんみりしていく感じが
なんとか伝わっていくと思うんですが?


************
【情景1】
> 猫が家中を走り回っている。お目当ては一匹のねずみ。
> ねずみは、人の目には見えない程の速さで逃げている。
> 逃げるんだったらもっと遠くへ逃げろ!

【心理1】
>はらはらして、じっとしていられなくなる。
> 胸の鼓動が高鳴る。

【情景2】
> ねずみが家具の隙間に隠れた。
>猫は忍び足で探したが、見つからない。
> じっとしてあたりを監視していたが、
>ってしまったらしい。

【情景3】
> つかの間の休息だ。ねずみも猫が追ってこないと見て
>ラックスしている。
> 平和だ。何もないと物音一つない。こんなに静かなんて気づ
かなかった。
(↑これも観客ではなく、スクリーンの向こう側の
気持ちなので情景に含まれてしまいます)

【情景4】
> ねずみは猫が居眠りしている隙にお菓子を食べにいった。
> 「カシャーン!」フォークを落としてしまった!
> 捕まるぞ、早く逃げろ!

【心理2】
一気に気分が高揚した。

【情景5】
> 案の定猫は飛んでいった。ねずみは一目散に逃げた。

【心理3】
> はらはらどきどきするおなじみのパターンだが興奮させてく
れるものはたまらない。


*************

やはり、克明な情景描写に比べて
深い心理表現が不足しているようです。

> 文章を「劇的、また文学的に表現する」のはとても難しい気
がしました。

そうですね。ここはまたひとつ殻をやぶって
ステップアップしなければならないところですね。

うーんと、西山さんがこれから挑戦すべきことは
2点です。

1つ、情景描写のルールの徹底と、洗練、要約

2つ、自分の心理をつかみ、豊かな感情表現を目指す


まず、1つ目。
西山さんの【情景2・3】で説明してみましょう。
確かにある程度克明に書かなくては、
心理描写をいうときに説得力はでません。
それは言いましたよね?

なので、↓のように
だーっと書けることは大事です。

【情景2】
> ねずみが家具の隙間に隠れた。猫は忍び足で探したが、
>つからない。
> じっとしてあたりを監視していたが、眠ってしまったらしい

【情景3】
> つかの間の休息だ。ねずみも猫が追ってこないと見て
>ラックスしている。
> 平和だ。何もないと物音一つない。こんなに静かなんて気づ
かなかった。
(↑これも観客ではなく、スクリーンの向こう側の
気持ちなので情景に含まれてしまいます)

----

ですが、そのシーンが第三者の脳裏に浮かびさえするなら、
どれだけ削ってもいいとも言えます。
文字数もあるので、ビビッドに短く洗練していきましょう。

また、情景描写のルールとして
ひとつ守った方がいいことを覚えてください。

“視点”のルールです。

この“視点”というヤツをおろそかにすると、
読んでる人はチンプンカンプンになる恐れが
あるからです。

曲を聞いて、イメージするシーンは
自由なので、場面を見ている“視点”も、
色々切り替わるとは思うんですが、
それだと読んでる方は、戸惑うのです。

どういうことか、説明します。

たとえば【情景2】の、

> ねずみが家具の隙間に隠れた。

ここは西山さん自身が見ている視点になっています。
猫は隠れたことには気がついてないわけですから、
「隙間に隠れた」とはいえませんからね。

ところが、すぐ次の文章では――

>猫は忍び足で探したが、みつからない。

猫の視点になっている文面になっています。
そして、すぐ次の文をみると――

> じっとしてあたりを監視していたが、眠ってしまったらしい

また西山さん(もしくは、ネズミ)が
見ている視点に戻っています。
もし猫視点なら、自分で自分のことを
「眠ってしまった“らしい”」とは表現しないので。

あくまで、猫以外の何者かが、
猫の様子をみて語っていることになります。

同じ時間軸の中で、こうパラパラと視点が移っては
読者は感情移入して、想像できません。

ここはルールとして、イメージ映像の中にいる
西山さんだけの視点(気持ち)で描くべきでしょう。
※手近な三人称の小説などを手にとって確認しても
ためになるかと。一場面、一視点というルールが
守られているものがあるはずです。
これは読者を混乱させないためのルールなんです。

※『文子は驚いて、光春を見つめた。
内心震え上がっている光春の顔を見ると、
急に気持ちがなえていく気がした。
光春はふらっと崩れ落ちそうになる文子の身体を
支えて思った。なんて軽いんだろう?
文子の肩に置いた手に、光春は力をこめた。
文子は寒々とした気持ちで、光春の目を見つめた。

どうですか、今クチからでまかせで
滅茶苦茶書いてみたんですが、混乱しませんか?
文子の視点のときには、光春の内心なんかは
想像するしかないわけで、
「内心から震え上がってる“ような”」とはいえても、
「内心震え上がっている」とは断定できないはずなのに
断定していますよね。だからもう最初からおかしい。
そのあとも視点がいったりきたりして、
読みにくいはずです。

なので、【情景2】を
西山さんが見ている、という視点で
統一してみましょう。

-----
ねずみが家具の隙間に隠れた。
猫は忍び足で移動し、時折じっとしてあたりを
監視していたが、やがて眠くなったのか
横になってしまった。
-----

どうでしょう?
短くはなってないかもしれませんが、
西山さんがそこを観ていて、
西山さんに分かることしか書いてないので、
視点もぶれずに読みやすくないですか?

すべての情景描写にこのルールの適用を
心がけてみてください。

【情景3】
> つかの間の休息だ。ねずみも猫が追ってこないと見て
>リラックスしている。
> 平和だ。何もないと物音一つない。こんなに静かなんて気づ
かなかった。
(↑これも観客ではなく、スクリーンの向こう側の
気持ちなので情景に含まれてしまいます)

---
つかの間の休息か。ねずみも猫も、
互いの存在を忘れたかのようにリラックスしている。
---
前半、視点ルール適用すると↑こんな感じですかね。

さて、その後の文章ですが、心理描写しているようでいて、
スクリーンの向こう側にいる世界の、
西山さんの気持ちになってしまっているので、
なんだか妙な感じになってます。

もっとはっきり、心理描写にするためには、
①“絵の世界の中にいる”西山さんの気持ちも、
②“絵を見て感じている”西山さんの気持ちも、
そのまま書いてはいけません。

“そういう絵が浮かぶ音を聞いている”ときの、
現実世界にいる、西山さんの気持ちの動きを
書くようにしてみてください。

私のバッファロー例は、まだ微妙で
あまりいい例とはいえないかもしれないんですが、
一見、映像を見て感じた感想を書いているようで、
“そういう映像が浮かんでしまう音を聞いている”時の
気持ちの動きを書こうとしています。

ここはややこしいんですが、
とにかく、映像の中に入ったまんまの
感想ではなく、外の現実世界にいる観客として、あくまで
“そういう絵が浮かんでしまう音楽を聴いた”時の、
心理状態を書いていくように意識してみてください。

わたしのバッファロー例の【心理2】では――

>私の中には、憤怒と、悲哀と、
>誰を恨んでいいのかも分からない、
>やるせない感情が一緒くたになって渦を巻いた。

となってますが、これは、
確かに「その映像を見ての感想でしょ?」
と言われてもおかしくないんですが(汗、
そういう映像が浮かんでしまった音楽を聴いた後の
心理とも言える書き方になっていると思います。

> 平和だ。何もないと物音一つない。こんなに静かなんて気づ
かなかった。

---
興奮状態で、激しく追い立てられていたような気持ちが、
徐々に、穏やかで、静謐な空気に包まれてゆく。
そしてやがて、はっとするくらいの静けさが
身体の中に満ちていた。
----

上は私なりに適当に言い換えたものですが、
こんな感じで、スクリーンの中で思った感じを
そのまま書かずに、
そういう映像が浮かんでしまった音楽を聴いた後の
心理を、身体の中や心の中をさぐって明確につかまえ、
具体的に、できる限り豊かに(人にイメージとして
伝わりやすいように)、書いてみてください。

それが、2つ目の挑戦課題――
「自分の心理をつかみ、豊かな感情表現を目指す」
です。

【心理2】
一気に気分が高揚した。

↑も、高揚したとはどんな感じなのか、
具体的に書くようにしてみてください。

椅子から立ち上がって、踊りだしそうなほど
心が浮き上がったのか、
どんな感じなんでしょうか?

気持ちをたどって、適当な比喩を見つけてみましょう。

【情景5】
> 案の定猫は飛んでいった。ねずみは一目散に逃げた。

のあとの

【心理3】
> はらはらどきどきするおなじみのパターンだが興奮させてく
れるものはたまらない。

ここは、
“ハラハラする映像の浮かぶ音を聞いた”時の
現実世界側にいる西山さんの言葉にはなっている
とは思うんですが(ややこしいですね^^;)、
やはり、もう一段深く表現しないと伝わない
可能性があります。

興奮して、どんな風にたまらなくなるんでしょうか?
愉快で痛快で、大口をあけてアハハー!
おもいっきり笑い転げたい感じに
たまらないんでしょうか?

また、細かいですが、

> はらはらどきどきするおなじみのパターン

というのは、分析口調になっているので
言い換えねばならないでしょう。

パターンだ、とかは言わなくても
大丈夫じゃないでしょうか。

どう気持ちが動いたか、だけを表現すればいいと思うので、

---
まったくハラハラドキドキの連続で、
愉快な気分にたっぷり浸れた。
身体がとっても軽くなったみたいで、
今ならガケから落ちても死ななそう!(笑)
---

とか>

分析せずに、自分の心の動きや、
どれぐらいのボルテージでどんな気分になったのかを、
第三者にわかるように、平易な言葉でもいいので、
劇的に表現するように挑戦してみてください。

今回は以上です。
頑張ってください!
ではでは。

誤字脱字あったら、ごめんなさいね。
見直すとけっこうあるんだよね^^;
とりあえず、急ぎで送っちゃいますが
わからなかったら、質問してくださいませ。


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試験は間近だが焦らず、『視点』の問題を片付け、さらに「自分の心理をつかみ、豊かな感情表現を目指す」ことを課題にあげた。『深く掘り下げた心理描写』をどれだけ劇的に描けるかが肝になりそうだったので、そこを押さえたような回だった。

果たして西山さんは本当に合格できるのだろうか……

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。