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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2019年1月の記事一覧

『論より証拠』

その裁判は証拠として提示される映像の社会的影響を考慮し、非公開とされた。内部告発を受け、逮捕されたのは著名な児童心理カウンセラーYだった。家宅捜索で押収されたDVDは8000枚を越え、自宅のパソコンからも数万枚に及ぶ画像データが発見された。 だが、実のところ押収されたそれらの証拠は決定的なものとは判じ難く、暗礁に乗り上げかかった裁判はもつれにもつれ、その行方は新司法制度によって施行された“裁判員最高裁”での頂上決戦を余儀なくされた。 検事の表情が険しくなった。ここが勝負ど

『月の底で泳ぐ』

夏の夜。 室内のすべての照明を落とし、いつものように二人は全裸になった。 ベランダから射し込む青白い月明りだけを頼りに、僕はめんつゆを彼女の鎖骨へと流し込んだ。 垂らしたそうめんの先に茶褐色のめんつゆがぬらりと纏わりついたところを一気にすする。 ちゅるる。 「あ……」 微かにくぐもった声が彼女から漏れた。 やおら防水シーツに仰向けになった僕のみぞおちに彼女がめんつゆを注ぎ込む。 上からゆっくりと浸されたほの白いそうめんの先端が僕のみぞおちの底をゆっくりとくすぐ

くわえていた魚肉ソーセージを海に還すと慌てて家へ引き返し、押し入れの一卵性ソーセージを喉奥に掻き込むように無我夢中でむさぼり食べた。

誰にも刺さらなかった言葉は 言葉の墓場に落ちていく 僕はそこの墓守をずっとやってる この言葉もここに戻ってくるんだろうな #詩