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「資本主義の新しい形」を読んで

京都大学の諸富透先生の「資本主義の新しい形」を読みました。大変示唆に富み、興味深く読めましたので、メモのつもりで感想を書きたいと思います。

「資本主義の新しい形」の概略

この本で主張してることは、資本主義の「非物質化」です。

まずは先進経済国の経済成長率が軒並み長期停滞しているというサマーズなどの主張を紹介しています。少し難しい経済の話ですが、わかりやすくまとめてあり理解しやすかったです。そして、これらの議論は全て物質側面のみに限定されいており、サービス化、デジタル化、知識化など、「資本主義の非物質化」の側面での分析がおなわれていないことを指摘します。確かに物質的な経済成長は長期停滞ではあるが、「資本主義の非物質化」を正しく捉えなければ「資本主義の新しい形」は捉えられないと問題提起しています。

「非物質化」とは、例えば特許、著作権、商標、ブランドのような売買可能なものから、名声、評判、独自の業務プロセスなど売買できないようなものまで含めた無形資産が重要になってくるということです。ソフトウェアやデジタル化への投資も「非物質化」になります。

日本企業の国際競争力の低下の原因は、まさに非物質的なモノへの投資がされていないことに大きな原因があることを様々なデータで明らかにしていますが、日本企業にこれまで非物質的な投資機会が無かったわけではなく、モノづくり信仰が強すぎて、その重要性を理解できなかったからであると主張しています。

そして、「製造業のサービス化」について述べられています。製造業のサービス化は、モノ事態に密接に結びついた形でサービスを提供することになるところが、サービス専業の事業者が提供するサービスとの違いになる点を、「製造業のサービス化」の歴史や自動車産業やシーメンス、コマツなどの事例で説明がされています。

これらの背景を踏まえて、日本企業が復活していく鍵が「製造業のサービス化」ではないだろうかと主張されています。日本企業からGAFAのような企業が生まれてくるには非常に難易度が高いですが、日本の強みであるモノづくり・ハード製品を通じてサービスを提供するビジネスモデルを目指すのがよいとのことです。そのためには、デジタルなどの非物質面・サービス面を「主」としてモノづくり部分を「従」とすることや、人的資本投資の重要性を訴えています。

もう1点、興味深い主張が、脱酸素化についてです。非物質化を目指すには事業・産業構造の構造をエネルギー集約型から知識集約型へ転換する必要があるため、非物質化と脱酸素は密接に関係しあいます。そのため脱酸素化と経済成長は両立するため、非物質化と脱酸素を同時に達成することを目指すことが重要であるとのことです。

無形資産への投資をどう高めるか?

物質的なものよりも非物質的なものの重要性が高くなってきていることは、様々なビジネスシーンにおいて感じるところですが、これを経済学的な観点から主張しているというところに、僕にとっては非常に新鮮でした。

例えば、マーケティング3.0がでてきなのが2010年頃だと思いますが、あらゆる製品がコモディティかしていき機能別な差別化が難しくなってきたところで、情緒的価値、ブランディングなどが重要になってきたという点からも、無形資産の重要度が高くなってきていることは感じられます。

日本はモノづくり文化が根強いからか、どうしても物質的なモノがないと価値を感じづらいという点は、個人的に激しく同意ですね。情報化やブランディングなどのリテラシーがまだまだ低い中小企業で特に感じます。ITの話をしていても、いまだにサーバが自社内に物質的なモノとして置いてないと安心できないと言われることがあります。サーバが欲しいという人たちは、必ずしもモノづくり企業ではないのです。日本ではモノづくり企業でなくてもモノづくりの考え方が深く浸透しているのだと思います。僕も新卒でIT企業に入社したときは、QCサークルなどをがっつり指導されましたので、少なくとも伝統的なIT企業には日本と製造業の品質管理の考え方はがっつり入っていると思います。多くの企業が申請する「ものづくり補助金」は、最近ではソフトウェアなどにも適用しやすくなっているようですが、当初は機械やサーバ類でなければ申請が通りづらいということでした。これまでは補助金の仕組みが非物質的な投資を抑制してしまっているという面もあったかもしれません。機械やサーバなどは買ってくるだけなので、コストの妥当性も説明しやすいですが、ITやブランドのような無形資産はコストの妥当性がわかりにくいということも、非物質的なモノへの投資が進まない理由の1つではあるかと思います。僕自身も普段の仕事ではITを扱うので、無形資産への投資の重要性やコストの明瞭性、投資対効果をわかりやすく見せていくことは大きな課題です。

「ものづくり偏重」から「サービス化」へ

日本企業の再生のカギが「製造業のサービス化」にあることは、非常に合意です。実際にモノを作っている製造業に限らず、製造業から生まれた強みはたくさんあると思います。例えばカイゼンや品質管理。カイゼンや品質管理に強みを持っている会社は実際にモノを作っている会社だけではありません。多くの日本企業に根付いている強みであると思います。
実際のモノ作っていないサービス事業者が製造業にモノを作ってもらい、モノをベースにしたサービスの提供というような、コラボレーションも重要ではないかと考えています。ビジネスモデルを1つの企業でつくることにこだわる必要は無いですが、そのためには企業文化などの変革は必要になりそうです。恐らく日本の、特にモノづくり系の中小企業では、ビジネスモデルを構築すること自体が苦手であると思われます。

現状ではまだまだ「ものづくり偏重主義」が強く、既存路線のカイゼンにとらわれてしまって、新しいビジネスモデルを生み出すことが出来なくなっており、日本企業の強みである「カイゼン」がDXの足枷になっているような状況もありますが、日本企業の強みをDXに活かせることを考えていきたいです。

脱酸素についても非常に参考になりました。確かに、非物質化を進めるとなると産業構造が知識集約的に変革されていくため、脱酸素を目指すことで自然と非物質化も進んでいき、そうするとサービス面を重視したビジネスモデルに変わってくるというように思います。


経済学の本を読むことはあまりありませんが、偶然この本に出会って読んでみたら非常に興味深く、一気に読んでしまいました。経済学的な難しい話も多少出てきますが、基本的には読みやすく、全てのビジネスパーソンにお勧めできる本です。

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