斜めから見る―大衆文化を通してラカン理論へ - ブックチャレンジより

大西 穣さんから7日間ブックカバーチャレンジのバトンタッチを受けて5日目:
斜めから見る―大衆文化を通してラカン理論へ (日本語) 単行本 – 1995/6/1
スラヴォイ ジジェク (著)Slavoj Zizek
Looking Awry: An Introduction to Jacques Lacan Through Popular Culture by Slavoj Zizek

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(アルバン・ベルク 〈新装版〉: 極微なる移行の巨匠 テーオドール・W. アドルノ
Alban Berg: Master of the Smallest Link by Theodor W. Adorno)

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スラヴォイ・ジジェクは旧ユーゴスラビア連邦で育ったスロヴェニアの思想家でラカン派の心理分析家。
現在、最も人気のある思想家だ。
20世紀半ばに活躍した思想家アドルノと共通点がいくつもある。
二人共ヘーゲルの思想をベースにフロイト、ニーチェ、マルクス、の影響があるが20世紀の共産主義には反対している。二人にとって芸術が大きな役目を果たしている。アドルノにとっては、彼の作曲の先生アルバン・ベルグのオペラが最も理想的な芸術だった。アドルノはハリウッド映画や消費者文化を嫌っていた。ブレヒトも嫌っていた。(ブレヒトはスターリンの共産主義を否定しなかったからだ。)
ジジェクはヒッチコック、リンチ、キューブリック、ラース・フォン・トリアー の映画のファンであり、ポピュラー・カルチャーを通してラカン派の心理分析を説明する。若い頃はプログレッシブ・ロックを聴いていて、ギリシャのアフロディテス・チャイルドの曲も(ヴァンゲリスのグループ)も心理分析の例に出している。
ジジェクはシェーンベルクのフロイト派の心理学の応用の仕方についても書いている。多くの人たちがシェーンベルグについて書く時、彼の12音音楽や無調音楽の技法について書いている。シェーンベルクは近未来の社会が先に見えてしまうような不思議な能力があったことについてあまり書かれていない。1920年代から30年代にシェーンベルクはいくつかのオペラの台本を書きだしていた。『モーゼとアロン』は現在未完成の形で演奏されているが、もう一つのオペラではユダヤ人たちが放射能をたくさん地球上に出す化学兵器を発明して、自分たちの国を砂漠で作ってしまうという台本を彼が書いていた。これは第二次大戦前の時代に想像の中でオペラ用に書いた台本だった。シェーンベルクの初期のモノ・ドラマ『期待』はフロイト派の心理分析家の協力で台本を完成させた。シェーンベルクやベルクの作品は、その作品の言葉とその後ろにある思想が最も面白い。
こうした心理学からの応用は第二次大戦後はシェーンベルクのような現代音楽よりもポピュラー・カルチャーの方に見られる。
ジジェクは文章も面白いがレクチャーも最高に面白い。アメリカのスタンドアップ・コメディーのように聞けてしまうが内容は西洋哲学史の深いところから来ている。

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