ひょうちゃん

ぼくの名前はひょうちゃん。
横浜からやってきたのサ。

僕の帽子は…
「シュウマイでできてるんでしょ!手は赤、足は青!そんなこと知ってるよ」

さとるくんは、んモゥ!という顔をしながら僕の自己紹介をいつも横取りする。
そして
「さ、行くよ」
と僕に声をかけると、僕を連れてお出かけするんだ。

僕がこのお家にやってきたのは…確か、妹のあんちゃんが生まれた1年半ほど前だと思う。お母さんのお友達が崎陽軒の仕事をしたから…って、崎陽軒のマスコットキャラクター「ひょうちゃん」のぬいぐるみをお土産に渡したんだ。
それが僕。

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初めのうち、お母さんはあんちゃんにむかって「ひょうちゃんだよ」なーんて言ってたんだけど、あんちゃんはちっとも振り向かない。でも隣にいたさとるくんだけは、「ひょうちゃん、ひょうちゃん」って僕に話しかけてくれたんだ。
僕うれしくってね。
つい「僕の帽子は何でできてるんだと思う?」ってクイズを出したんだよ。
さとるくん一生懸命考えたんだけどわかんなくって、そしたらお母さんが「僕の帽子はシュウマイでできてるのサ」なーんてデタラメ言い出すからびっくりしちゃったよ。

でもそれ以来、さとるくんは毎日僕に「帽子は何でできてるの?」「ひょうちゃんはどこから来たの?」って気さくに話しかけてくれるようになった。

ある冬の寒ーい日のことだ。家族で近所をお散歩することになった。僕は当然おうちでお留守番かと思っていたのに、さとるくんは僕を連れ出すと
「どうだい?寒くないかい?」
と言って、自分の服の襟元に僕をズボッと入れてくれた。そして顔だけは見えるよう出したまま「外の世界はすごいだろう!」って僕に外の世界を教えてくれたんだ。
僕は初めて見る外に驚いてただただ目を丸くしていたんだけど、さとるくんはアレは鳥だよ。これは自動車って言うんだ、危ないから気をつけなよ。と僕にいろんなことを教えてくれた。
その日、僕の心にほんとうの魂が宿った。

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あれから1年半。
僕たちはずいぶん仲良くなった。
朝のお散歩、自転車でお出かけするとき、お母さんに叱られたとき、お風呂にはいるとき。
いろんな時間をさとるくんと過ごしてきた。
さとるくんが自転車に乗れるようになるまで、僕は何度も何度も自転車のカゴから応援した。スイスイ乗れるようになってからはさとるくんの方から、カゴにいる僕に声をかけるようになった。「しっかりつかまっておくんだよ」と言うと、きつい下り坂を一気にびゅーんと降りて行く。「どうだい!すごい風だろう!」と自慢げに言うさとるくんに僕は「こんなに早いとまいっちゃうよ!」と弱音を吐くんだ。すると、ほんとうに誇らしそうな顔で僕を見てお母さんの方を笑顔で振り返るんだよ。

いまさとるくんのお母さんは新しい赤ちゃんを出産するために、入院してる。
僕の声が出なくっても、さとるくんは前と変わらずどこに行く時も僕を連れて行ってくれる。だからお母さんに送る動画のさとるくんの胸にはいつも僕が入ってる。

さぁ、もう数日でお母さんが病院から帰ってくる。お母さんが帰ってきたら、僕は一番に言ってやろうと思ってるんだ。

「僕の名前はひょうちゃん。横浜からやってきたのサ。僕の帽子は…」

さとるくん、またほっぺたを膨らませて僕の自己紹介、取っちゃうんだろうなぁ〜

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