ヴェルレーヌ 覚書

フォーレの「5つのメロディー ヴェネチア」より「マンドリン」を練習しています。発音を確認しつつこの歌の深掘りをしてましたらなんとも面白かったので覚書。

この曲の詩はポール・ヴェルレーヌの詩「雅な宴」から取られたもの。

冒頭
“セレナードを奏でる男たちと、それを聴く美しい娘たち。
彼らは歌う小枝の下で、取り止めもない会話を交わす。”

ラスト
“灰色を帯びたバラ色の月の光の中、うっとりと渦を巻きながら
マンドリンの音色が鳴り響く、そよ風のざわめきの中で。”

このヴェルレーヌの詩は、ロココ美術の創始者と言われるアントワーヌ・ヴァトーの絵画にインスピレーションを得たもの。

ヴァトーは、当時のフランス貴族が豪奢なパーティーをしている様子を美しく描きつつ、その絵の中に哀愁を漂わせるような人物も登場させています。

そのひとりがピエロで、イタリアのコメディア・デラルテ(喜歌劇)に登場します。貴族たちもその衣装を纏い、男女の密やかな情事、奏でられる音楽に身を任せ、いっときの享楽を楽しんでいるようです。

ヴァトーの描くピエロの表情は、陽気な衣装とは裏腹にどこか沈んでいてなんともアンニュイ。ロココの光と影がヴァトーの絵からは感じられます。

詩人のヴェルレーヌもなんとも激動の人生を送った人で、自分を同性愛者と気付きながらも女性と結婚し、それでも若く才能に満ちた男性と恋に落ちては放浪の旅に出てしまい・・母親に何度も暴力を振るいながらも経済的には頼り切り、母が亡くなってからはホテルや病院や娼館を転々とするなどなんとも退廃的。ちなみに若い男との痴話喧嘩の際はピストルで相手に2発撃ったとか(そのうち1発は壁に、1発は男の手首に当たる)。

とんだろくでなしだと思うのですが、そんな人生だからこそ情景の一瞬の美しさと恋の営みの官能、その奥に続く絶望を詩に表現できたのかなぁと思います。

ヴェルレーヌに影響を受けた日本の詩人は多いみたいですね。代表的な人だと中原中也とか。あぁどこか太宰治にも通じる部分がありそうです。


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