見出し画像

夢の先の続き

1.夢を見た

私は給料日だからという理由で酒を飲み、
次の日も朝が早いので、
21時半には就寝するという健康的な夜を過ごし、
そして半ば気絶のような形で眠りについた。

夜中の3時。
俗にいう、丑三つ時。
尿意を感じ、目が覚めた。
なんだかたくさんの旧友に会った気がしていたのに、
目の前は薄暗い私の部屋の天井だったから
これが現実か夢かはっきりしていない私は、
この尿意は現実であるということに気がつき、トイレに行こうか、我慢しようか。
面倒だな、と思いつつも、体を起こした。


用を済ませて、また布団へ戻る。

なんだか癖で、携帯を見てしまって、
そしたら幼馴染からメッセージが送られてきていた。
3件の通知。

画面を長押しし、未読スルーをかます。


「あゆま」
「(写真)」
「栃窪ばかかわいい」

その写真は、私たちの共通の親友が、
修学旅行の車内で、敬礼をしている、というものだった。

「これは可愛い」
「今は陰毛ヘッドのくせにな笑」
「いやー、ちょうど懐かしい夢を見てて、
 起きたところだったわ」

私も3件の通知を相手に送った。
こんなこと、この幼馴染に言っても、
興味がないだろうが、そんなこと知った上で
私が送りたいから送った。


丑三つ時だというのに、素敵な夢と現実だったと満悦しながら、また眠りについた。

気がついたら、陽はもう仕事を始めていて、
まだまだ寝たいのに、起きなければならないから、
起きて、鏡を見て、むくんだ自分の顔に面白さすら感じながら、朝食の準備をする。

うーーーん、いい夢だったような、そうじゃないような。
覚えていないけれども、幼馴染からメッセージが来ていた事は確かで、
あれは夢と現実であったことの証明となる。

やっぱり夢だったか。
少しだけ寂しい。


夢見る私が、夢を見て、現実を生きている。


2.現実の中で

上京して1年と1ヶ月が経った。

モデルをしたい、なんてことを言って
地元を飛び出した。

イタリアのミラノに行って、海外に挑戦したことが、3ヶ月前のことなのに
なんだか自分のことじゃない、というか
自分が本当にしたこととは考えにくい。
今の私は、痩せようという気持ちと、
食べてしまう私の狭間で、
ゆるゆると、ただ金を稼ぐ生き物になっていた。

ここ2ヶ月くらい、モデルらしいことは何もしていないからなのかもしれない。

なりたい自分と、それになれない自分。

ただ生きるだけでも難しいのに、
何かを成し遂げようと生きることはもっと難しい。

私は本当にモデルになりたいのか、
そんな迷いすら感じてきている昨今。

自分が売れるというビジョンが、見えない。

少しだけ、野望や自分への期待や、
将来への期待、それらの熱量は冷めている気がする。

全く、困ったものだ。

あれ、私は何をしたいんだっけなぁ。


3.惰性運動

海外に挑戦した、5月〜7月。
東京コレクションに露出することができた8、9月。

それらのモデルらしい行動の残りカスを燃料に、転がる滑車に身を預けて、
ただ月日だけが過ぎていく。

イタリアの夏を経験して、
帰ってきて日本の夏を経験した。
どちらもクソほど暑いし、なのになぜか嫌じゃなかった。

気がつけば、さつまいも関連の商品が続々と発売され、
次は栗が並んだ。
十五夜が過ぎ、至る所で団子を目にしなくなると、
ハロウィン関連の商品が出てきた。

金木犀の香りが街の歩道のあちらこちらからするようになっていて、
そして、おせちやクリスマスケーキの予約が始まっている。

こんなにも月日が経ってしまった。

私は、なにかモデルとして成長できたのだろうか。
否、自覚できない。

この歳月の中で変わったことは、
セルフで鼻にピアスを開けたことくらいだ。

去年の同じ月、メラメラと燃える、私のあの感じ。
あれは理想という夢の一種を見て、
それを空想から現実にしようと必死だった。

現実を知って、理想や自分自身に対する期待は、静かに、崩れた。

こんなこと、もう辞めてしまおう。

そうは思わない不思議がある。
なぜ私はまだこの夢に縋るのだ。

地元に帰って、テキトーに働いて、
彼女を作って、友人の結婚式に行って、
同棲を始めて、趣味を作って、友人や家族と酒を飲んで。

それでいいじゃないか。

何が私をこうさせるのか、私は分からない。
私は私が分からないのだ。

今を突き動かすのは、なんなのかを説明できない。

もう1年もたったというのに。
ん?
思えば、目指し始めて1年か。
まだ1年か。
芸人や俳優の下積みは長いと聞く。

なんだ、私も下積みじゃないか。


4.新しい燃料

私のモデルとしての人生を考えた時、
何年やるか、やりたいか、やれるか、を考えたら、
まぁせいぜい20代後半までかな、なんて思っていた。
8月に東京コレクションで一緒になったモデルの人と話したら、
30代だというじゃないか。
それでも全然素敵にかっこよかった。

そして、その人はずっと前からモデルとして露出し続けていた。

私もこれから5年、10年やるとして、
たった1年、モデルに触れて、意気消沈するなんてアホらしくなってくる。

私は何を知っているんだ?
まだ何も知らないじゃないか!

そうか、私が諦めない何かは、現状の自分への不満だ。
そしてこれからの新しい燃料は目標だ。

私は言っておくが、負けず嫌いである。
ただ、時に、自分は自分、他人は他人という思考を持ち合わせているので、
諦めがつくものもある。

柔軟性のあるというか、都合のいいというか。

今までの不満と、新しい燃料に気がついた私は、
Instagramで勝手に、幾つかのモデルをライバル認定した。
一方通行ではあるが。

さぁ、どっちが売れるか勝負しようぜ。
グズグズしないことをお勧めするよ。
こっからのおれは強いと思うぜ。

気持ち悪いくらいに強気だ、私。


そういえば今月末に友人の結婚式がある。
久しぶりに友人たちに会う。

インスタライブをした時、
「元気そうでよかった」とか
「結婚式来れるの?」とか
気にかけてくれる友人たちが私にはいる。

きっとまだまだ地元には帰らないだろう。
たまにしか会えないだろう。
だけど、会った時に精一杯の感謝を伝えよう。

言葉だと、なんだかしんみりしてしまいそうで、
だから、思いっきり笑って笑かして、
遠回しに伝えよう。

そして私はまた夢を見ることにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?