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ボクの夏休み。



毎度、海外に挑戦して、その滞在が終わる頃に
思うことがある。
夢を見ていたみたいだって。

これはオーバーな表現で、
もっと現実味を帯びる表現をするならば、
これは、夏休みのようだ。


1.たぶん太陽が近い

イタリアの風は今日も爽やかで、心地が良い。
日向に出れば、首の裏で焼肉ができそうな程、
ジリジリと熱を持つのだが、
日陰に入ると、驚くほどに、爽やかな風が抜けていく。

黒いTシャツなんてもってのほかだ。
あんなもの、着てしまったが最後。

太陽が、私だけを焦点に当てて、狙い撃ちしているんじゃないかと思うほどに、暑い。
(もはや、熱い。)

街の至る所に、緑の多い公園がある。
人々はそこで、いちゃついたり、電話したり、
散歩をしたり、ランニングをしたりしている。

私も真似て、そこで音楽を聴いたり、
返信を返したり、これを書いたりしているのだが、
なんせ蚊が多い。
蚊という生き物の存在意義を調べた生物学者は
絶対に存在するだろうな。
そのくらい、蚊という存在は、本当に腹が立つ。
虫は殺さない主義であるが、蚊だけは絶対に生かしておけない。
そしてなるべく形を綺麗に残して殺したい。
そして他の蚊に見せつけるのである。

私に近づくとこうなるぞ、と。

だが蚊はいたって気にしていないらしく、
平然と私に近寄ってくる。
そして、私を傷つけて消える。
総合すると、圧倒的に私の負けである。

でもそんなことどうでも良くなるくらいに、
イタリアの夏は気持ちが良いのだ。

1年前の夏に来た時も、気持ちが良いと思った。
そして、今年の1月に、初めて冬を経験したが、
夏の方が好きだな、と再認識した。

1年前は、2ヶ月も滞在したのか。長いな。
1ヶ月ですら、長いと感じている。
そして、3度目の今回も、終わろうとしている。
はやかった、のか?

夢のようだった。
自分であるのに、自分でないような。
私が確実に経験したことなのに、
本当に経験したのが怪しいほど、思い出がフワフワしている。

たった1週間前のことも、濃密すぎて、
半年前と言われても、納得してしまいそうなほど。

そのくらい、海外にモデルとして来た1ヶ月は
恐ろしく濃いのだ。
経験を凝縮したようなのだ。

日本にいる半年より、海外に来た1ヶ月の方が
遥かに、圧倒的な密度を持っている。

それはきっと日本ではモデルをほとんどしていないし、
その機会すらあまりないからなのかもしれない。

たまに街を歩いて、実感する。
慣れてきてしまいそうで、でも思い立った時、
ふと、そうだ、ヨーロッパにいるんだ。
と思う。

そう思った時、無駄に空を見上げたり、
建物を見たり、人を見渡したりする。
そして、空気を吸う。

今日も空気は爽やかに乾いている。
そして、やはり太陽が近い。
頭が焼けそうだ。(スキンヘッドのわたし。)


2.夜の静けさ

日本と、イタリアの時差は、マイナス7時間。

友人や家族からの連絡がないだけで、
こんなに静かに感じるとは。

まったく、もうSNSに支配されているように感じる。
ただ、私の住んでいるところが道路に面しておらず
物理的に静かであることも要因であると思う。

タバコを吸った時、ジリジリと音が聞こえるほど
静かであるのだ。

返信を待ち、起きたらこれを送ろうかな、とか
こんなこと話したいが、今送ったら
追撃してしまうので、待つ。

私が中学生の時の恋愛のようだ。

あの頃は、ここまでSNSが普及しておらず、
小さな携帯で、メールでやり取りをしていた。
なかなかに返信が返ってこなかったり、
あまり携帯を見ることを日常としていなかったから
何件かのメールでのみ、やり取りをしていた。
携帯の料金も、通話し放題なわけではなく、
今のように、無料でアプリケーションを通じて
連絡できるわけではない。

話したいこと、たくさんあるのに、
話せないもどかしさが、あの頃のようだ。

だが、こんな夜が、私は好きだ。
心が安らぎ、静かに、グラスで赤ワインを飲んでいる。
我がシェアハウスには、ワイングラスは無く、
単なるガラスのコップで飲んでいる。

ワイングラスでもあれば、かっこうがついたかもしれないのに、こういうところが、
なんだか少し私らしいと思う。

なんだかかっこつかないというか。

毎日たくさん飲んでしまうのは、健康にいかがなものかと思うから、
決まって1杯だけ飲む。
たまにもう少し飲みたいときは、2杯飲むが。

特に銘柄や産地を気にせず、パッケージと安さで赤ワインを選んでいるのだが、
先日、開けてみたらびっくりの
スパークリングの赤ワインだった。
人生で初めて飲んでみたが、なかなかに悪くない。
まあ特別美味しいわけではなく、やはり普通の赤ワインの方が美味しいなと思う。

イタリアには、ワイン法なるものがある。
実は、イタリアはワインの生産量が世界一であるのだ。
ワインというと、フランスのイメージも多いが、
さすがは美食の国イタリアである。

そして、すべてのイタリアンワインは格付けされ
それが表示されているから、一目でわかる。

先日、安くなっていると勘違いし、1番高いランクのワインを購入してしまった。
やけに美味いと思いながら飲んだが、
特に気にせず飲んでいた。
そのワインがなくなり、新しいのを買ってきた。
等級は下のランクのもので、2ユーロ(300円前後)くらいしかしない。
それを飲んで後で、やはりあのワインは私の口に合っていたと思い、ゴミ箱に捨てた瓶を拾い
もう一度みたら、1番高い等級のワインであった。
それは美味しいわけである。
少し、私の舌に自信を持った瞬間であった。
その1番上の等級のものでも、8ユーロ〜10ユーロくらいで買えてしまう。
日本円にすると、1000円〜1500円ほどだと思う。

そして1番驚くべきが、
冷えた水(500ml)と
常温の瓶ビール(660ml)が、同じ値段なのだ。
約200円弱だろう。
冷えたコーラにいたっていえば、常温のビールの方が
圧倒的に安い。
そりゃ、ビールを買ってしまうわけで、
酒が飲めて、食べ物にアレルギーのない私にとっては、イタリアという国は、最高であるのだ。

なんだかよくわからないものも、とりあえず買ってみて失敗したこともたくさんある。
思ってたのと全然違うことしかない。

イタリア語を、もう少し勉強したいと思いつつも
それよりもまず英語だろう!と思いながら
息抜きに韓国語を勉強している。

言葉を知ること、これもなかなかに面白い。

勉強をしながら、または本を読みながら、
漫画を読みながら、タバコを吸いながら、
ちびちびと、暇つぶし程度に赤ワインを飲む。

これは私の1日の楽しみであるのだ。
そして暗くなってから、というマイルールがあるので、
大抵22時くらいに、寝酒のように飲む。
(イタリアは22時位にやっと暗くなる)

酔っ払うほどでは無く、少し体温が上がる程度が心地よい。

ただ最近は暑くなってしまって、
夜も暑いから、体温が上がってしまうと、ベタベタするのだ。
そして、私が経験したシェアハウス、4つのうち
エアコンがあった家は1つだけだった。
窓を開けたら蚊が入ってくる。

汗ばんでベタベタした状態でベットに入りたくないから、
寝る前に水シャワーを浴びて寝ることにしている。

これが私の大抵の夜だ。

そしてこの時間に、いろいろなことを考える。

モデルとして、今後どう動くか、
人としてどうありたいか、
いろいろなことを考えているうちに、妄想してしまって、
自分に期待して、ワクワクしてしまうのだが、
今これを書いている頃の終盤は、
パリファッションウィーク真っ只中であるからに
知っているモデルや、知らない日本人やアジア人がショーに出ているのをみて、
淡い期待は、霧散していく。


3.鉄であれ!

今季を総合的に評価すれば、悪くはなかった。
アジア人がまだヨーロッパに来ていない時期に
受けたキャスティングを、2本取ったから、
これは作戦勝ちだと思っている。

それ以降は、全くといって、ダメだったし、
そもそも6月に受けたキャスティングは、
1本(なのだが、カウントしていいのかわからないほど
クライアントの態度は酷く、興味がないのがみえみえだったし、
あれはモデルを数百人みていた日の後半だから
仕方がないのだろうと思った。
なので、1本未満とさせていただきたい。)
しかなく、充実しているとは言えなかった。

そして、あんなに私を見ていないというキャスティングに、現実に、1年前の私なら凹んでいただろう。
ご覧あれ、今の私を。
何にも感じていないのだ。
気にも留めていないのだ。
これが、精神修行の結果なのだ。

私は、夏休みのような精神修行を
半年に一回、1ヶ月前後、3回行っている。
そして、日本にいる間も、モデルとしての
私の結果をヒシヒシと痛感させられているため、
ちょっとやそっとのことじゃあ、もう何も感じないのである。

クッキーではダメだ、鉄であるべきだ。

鉄は叩けば叩くほど、強くなる。
隙間を無くし、介在物をなくし、
鉄は強くなる。その過程を鍛錬という。

何かを成し遂げたいとき、必ず障害はあるし、
きっと楽しいことだけじゃあないと思う。
辛いこと、心労のかかること、たくさんある。

私は鉄だと思い込んで、生きていけば、
気がつけば世界も驚く日本刀になっているかもしれない。
我々は、侍にも忍者にもなれるのだ。


4.no bad

今回の夏休み、どうだったろうか。
キャスティング自体は、5月は順調で、3つ、受けさせてもらった。
そして、キャスティングに行かずに、ウェブだけで決まった仕事が1つ。
キャスティングから勝ち取った仕事が1つだ。
すべて5月中の出来事だった。

6月は先述した通りの1未満であるから、
5月だけで言えば、良い出来であった。

そして、勝ち取った仕事が、衣装を着て、
写真を撮られる仕事が1つ、
ショーのお仕事が1つと、バランスも良かった。

しかもショーの場所が、フィレンツェであるのだ。
フィレンツェでは毎シーズン、ミラノファッションウィークの直前に、
pitti uomo(ピッティウオモ)というものがある。
主に、ポールスミスなどの、スーツで有名な紳士服のブランドのショーやプレゼンテーションがそこで開催される。

初めてイタリアで、ミラノ以外の地へ足を踏み入れたのだ。
泊まりで行くので、自由時間に、街を見にいこうと、ワクワクして、
フィレンツェの観光地や食べ物を調べたり
していたのだが、
リハーサルや衣装合わせに時間がかかり、
解散は、21時だった。
夜飯も食べずに。

こんなことなら、もっとたくさんケータリングを
つまんでおけば良かったと後悔していた。

さすがに疲れたので、軽く近くのケバブ屋で
ケバブを注文し、食べていたら、
ポーランド人の男のモデルが声をかけてきた。
「is it good ?」
私は、「hmm, no bad」と答えた。
その子は、結局ケバブラップを注文し、
私と一緒にケバブを食べた。

そしてその後、
「もしまだ食べれるなら、
 ピザ食べにいこうよ!近くにあるんだ!」

と言った。
「私も、全然いいよ!いこう!!」

てな感じで言って、向かった。

なぜこんなに金がないと言っていたのに、
発散しているのかというと、
我々には、滞在にかかった食費、タクシー代を
上限はあるが、クライアントが後日精算してくれるのである。

だから、無駄にケバブを食べた後に、
ピザを食べるなんてことをした。

いやしかしそのピザは美味しかった。
本当に美味しかった。
熱々できたてで、ジューシーで。
あれは逆に、ケバブを食べずに、ピザを2枚食べるべきだったなと思っている。

そんなこんなで、その子と仲良くなったので、
次の日は会うたびに、
「wassup bro〜」と言われた。
(what’s up bother、調子はどうよ!て感じ)

ショーでは、私のヒールは、15センチ以上あり
緩やかな下り勾配の坂を下りるのが、
まぁ、しんどかった、が、できた。
私は馬、i am a horse、これを繰り返し心の中で唱え続け、上手く歩けた。ウマだけに。

そして私の衣装は、かなりの重装備だった。
上半身は、タートルネックのニットに、
合皮の革ジャケット。
しかも首までギチギチに絞められ、
下半身は、
スパッツに、厚めの生地のスカート、
膝下までのロングブーツ。
誰がどう見ても、28度の気温で汗だくになりそうなものだが、
ここでも私は、
私はモデル、i am a model 、
と、心で唱え続け、本当にシャーが終わってから、胸や背中にたくさんの汗をかいた。
衣装を返すのが偲びない程であった。

このショーの翌日、早速インスタグラムに投稿をした。

思ったよりも反響があり、たくさんの人がコメントをしてくれたり、
転送してくれたり、連絡をくれたりした。
3度目でも、未だにこうして、応援されていることを感じると、
本当に嬉しくて、これが私の何よりの糧になる。

頑張ってきて良かったなぁと思う瞬間の一つだ。

また、頑張ろうって思えるし、思わせてくれる。

履いたことのない、15センチのヒールでのショー。
夏の厚着で屋外でのショー。
無事成功できたのは、気持ちのおかげだ。
そして、鉄だと思い込んでいるハートも。

気持ちって本当にすごい。

だから、私は、私の周りにいる方々のお陰で、
今日も前向きに頑張れている。
気持ちが保てているのだ。
いつも、とてもほんとうにありがとうございます。

そして、またまたVOGUEに掲載され、
今回はトップに写真が使われるということを
経験した。

前回でた違うショーでも、私のルックは、vogue italiaにのり、今回も、である。
そして今回は、URLを貼り付けただけで、
私が出てくるというこの嬉しさ。

やっぱりおれってば、もってるなぁ!と思う。

多分もしかすると、vogue itに、私のファンがいるのかもしれない。
そんなわけがないが。

それから、ファッションウィークを迎えたが、
完全に傍観者であった。

そこに参加できれば、本当に申し分なし、というほどであったのだが、
上手く行かないものだ。
一歩ずつ、小さかれど、一歩、確実に進めている。

このショーは、ファッションスクールの卒業ショーで
決してブランドのショーではない。
大きかれ、小さかれ、仕事は仕事。
露出が少なかろうが、ゼロではない。

小さいかもしれない、でも一歩進めた。

そして、3シーズン連続で来ているからこそ、
イタリアの事務所との関係性は良好だと思うし
ミラノのジムを無料で使わせてもらっている。

継続することの大切さを、また学んだ。

だから、やはり今季はno bad。悪くない。


5.宿題

明日、日本に帰国する。
大きな、誰もが知っている大きなクライアントの
ウェブキャスティングがきて、毎日ドキドキと
帰国どころではないのだが、
キャスティングが来たこと自体、夢のような話で
フライトチケットを変えるわけにもいかず、
帰国へと準備を進めている。

先日このキャスティングを受けた後日、
事務所のマネージャーから電話が来たのだ。

受かった!!きた!!!やべぇ!ドキドキ!

なんて思いながら電話を聞いていたら、
単に、もう一回キャスティングで使った動画送って、ってだけだった。

く、く、くそがっ!!!!

期待させるな!!!!

ただ、私にもこういう需要があるのか、と
キャスティングが来ただけで勉強になった。

一攫千金、千載一遇。

皆さんに、良い報告ができることを願ってます。

そして日本に帰り、税務局へ行き、ある書類を
ミラノの事務所に国際郵便しなければならない。

バイトにも穴開けて迷惑かけたので、
早く復帰しないといけない。

友達にも家族にも会いたい。

帰国後の私は本当に忙しいようだ。

家賃、、理論上はいけるが、
たぶんもしかすると1ヶ月滞納しそう。

洒落にならん。

あぁ!!!夏休み終わってほしくないなぁ!
夢が覚めないでほしい!!!
まだイタリアで、ピザ食べてパスタ食べて、
ワイン飲んで、トマト食べさせて!!
バルコニーでバジル育てさせて!!

終わりがあるから、始まりがワクワクするし
また新鮮な気持ちで、始められるのだ。

僕の3度目のアダルト夏休みが、
終わろうとしている。

そして、いつまで続けられるのか。

そんなことは考えずにいたい。

今は、終わることより、手前と少し先だけをみて生きていきたい。

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