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私の勝負曲

花や読書等、好きなものは色々あるのだが、「あなたの趣味は何ですか?」と聞かれたら迷わず「音楽です」と答えるであろう。
そう、音楽をこよなく楽しんでいるのだ。

聴くのももちろん好きだが、演奏することも好きだ。
そして、なるべくなら人とセッションしたい。
音と音が重なり合う、あの瞬間がたまらないのだ。
ただ、毎日忙しく自由な時間がなかなか確保できない。
制限があるなかでも何か楽しめるものはないか思案していた所、あるアプリを教えてもらい一年程前から利用している。

このアプリは既に投稿されているサウンドにコラボすることで、疑似セッションを楽しめるというものだ。
マイク等の機材は必要なく、スマホ一台あればよい。
後は歌や楽器演奏を録音するだけだ。
とても手軽にできるため、自分の空き時間に疑似ではあるがセッションが可能になり、充実した毎日を送っていた。

始めはただ自分の好きな曲を演奏して楽しんでいただけだった。
上手く元のサウンドに合わせることができると、それだけで嬉しかった。
練習の成果が出せると更に嬉しかった。
そんな日々を送っていたある日、変化が訪れた。
そう、友人ができたのだ。

「初めまして!お上手ですね!」だったと思う。
サウンドにはコメントを書くことができるのだが、ある日自分のサウンドにこんなコメントが書かれていたのだ。
「ありがとうございます。嬉しいです!」
まさか自分の演奏にリアクションがあると思ってもみなかった私は、感動に震えながら無難なコメントを返したように思う。

ぎこちないやり取りがしばらく続いたが、ほどなくしてお互いのサウンドを聴き合うようになり、お互いの演奏に感想を言い合うようになった。
好きな曲や好きなアーティストについて話し合い、リクエストをし合うようになった。
そして、コラボするような仲になったのだ。

2人で話し合い、パートを決め、順番に録音をし、2人のサウンドができあがる。

顔も名前もなにも知らない、きっと遠くにいるであろう全くの他人であるが、間違いなく友人だ。
気のおけない友人なのだ。
素人同士の拙い演奏だが、その友人とのサウンドは私にとってかけがえのない宝物になった。

穏やかな毎日を過ごしているため勝負なんてものには縁がないのだが、少しだけ誰かに背中を押してもらいたいときはある。
そんなときに聴くのは有名なアーティストの楽曲ではなく、2人で試行錯誤しながら作り上げたあのサウンドなのだ。

私の勝負曲は、友人と作り上げた世界でただひとつの宝物だ。


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