私を少し大人にしたドラクエⅤ

「愛がある、冒険がある、人生がある」

好きなゲームの話になると必ずといっていいほど話題になるドラゴンクエストⅤ。
冒頭の文は、このゲームのキャッチコピーである。
主人公を操作しシナリオを進めてボスを倒すという所謂RPGの王道なのだが、本作は幼少~大人と時間軸が変化することや途中の結婚イベントのため、より主人公に感情移入しやすいゲームといえよう。
キャッチコピーの通り、冒険だけでなく愛や人生における自分の価値観が浮かび上がるのである。

出会いは確か小学生の高学年だったと思う。
誕生日かクリスマスにソフトを買ってもらい、うっひょおぉぉぉうと興奮しながら起動した。
ドラクエはⅠから順番にプレイしていたので、操作やシナリオの進め方には慣れたものだ。
民家に押し入り、壺を壊したりタンスをパカパカしながらスライムをこん棒で打ちのめしていたところ、ある人物と出会う。ビアンカだ。

ドラクエをプレイしていたのは当時男の子が多く、みんな主人公と自分を重ねていた。
が、私は女子児童だったため、始めこそ主人公に感情移入していたのだが、ここでビアンカにすっかり感情移入してしまったのだ。

虐められていた猫を助けるために、夜中に不気味な城のお化け退治へ主人公を誘う私(ビアンカ)。
魔物達を倒し、落とし穴を抜け、お化けの親玉を倒すのだが、しっかりレベル上げをしてから臨まないとすぐにやられてしまうのだ。
何回も気絶した主人公を担いで宿に戻る私(ビアンカ)。
お化け退治の後、「また冒険しようね」と主人公と固い約束を誓う私(ビアンカ)。
完全に私はビアンカだった。

私(ビアンカ)と別れた主人公は、パパスとの別れや長い奴隷生活等辛い時期を過ごす。
他人なのだが、さすがに可哀想で仕方ない。
さらに物語を進めていくと、勇者を見つけるためには天空の盾が必要だという情報を手に入れる。
そしてルドマンという大富豪が持っているということを突き止め交渉すると、なんと自身の娘と結婚するならあげようと言うではないか!
娘に見合うかどうか見極めるため、指輪を2種類調達してこいとのこと。

この時点で私は結婚イベントについての前情報は一切なく、さらに主人公は完全に他人であるため、美人でお金持ちのお嬢様のフローラと結婚するんだこいつ、いいなーと思っていた。
そんな頭お花畑の私を現実に引き戻したのがそう、ビアンカとの再開だ。

幼馴染みと運命の再開。これ程劇的なことがあるだろうか。
2人は幼い頃の約束を果たすため、2つのリングの片方である水のリングを探す冒険に出かける。
今まで主人公のことをなんとも思っていなかったのだが、しばらく会わないうちに逞しく育っていて魔物達をばっさばっさと薙ぎ倒す姿を見るうちに、あれ。。カッコいい。。?と心がトゥンクしてしまったのだ!

指輪を手に入れルドマンの所に戻る頃には、フローラのことが疎ましくて仕方なかった。
なんだこいつ、ぽっと出のお嬢ちゃんじゃねーか。
え、本当に結婚しちゃうの?辛すぎる!
イベントを進めるのが辛くなってきたこのタイミングで、「さぁ、ビアンカとフローラどちらと結婚するか自分で決めなさい」と迫られるのである。

ここまでの話の流れからすると、ビアンカ一択かもしれない。
当たり前だ。私はビアンカなんだ。自分で選べるんだぞ。主人公と結婚して一生冒険するんだ。幸せになるんだ、私!

でも、悩むことないわ。フローラさんと結婚した方がいいに決まってるじゃない。


そう、私はただの幼馴染みなのである。
主人公には勇者を探すという使命があり、それを果たすには「天空の盾」がどうしても必要なのだ。
私と結婚すると盾は手に入らない。
私には主人公の使命を邪魔することなんて、とてもじゃないができない。
それにお金持ちで美人のお嬢様と結婚した方が絶対に幸せに決まってる。。。

私は血の涙を流しながらフローラを選んだ。

それからというもの、このゲームに対する情熱が一気に薄れてしまった。
双子の子供が産まれて幸せそうにしている2人を素直に祝福できなかったし、フローラがさらわれてしまったときは「ざまーみろ」なんて思ってしまったのだ。
このままでは私の心が壊れてしまう。。。
まずいと思った私は、仲の良かった男子にビアンカフローラ論争を吹っ掛けたのである。

「え?ビアンカ一択じゃん。なんでフローラ選んじゃったの?」
「え。。だって天空の盾。。。」
「ビアンカ選んでも貰えるよ笑」

この話の後のことはあまり覚えていない。
「バカじゃねーの?」とか、「フローラ選ぶとか人間じゃなくね?」とか、すごくひどいことを言われた気がするけど、そんなことがどうでもよくなるくらい私は打ちのめされたのだ。

単純に、「やったー!天空の盾もらえるんだ!じゃあリセットしてビアンカ選び直そう!」と思えれば良かったのだが、できなかった。
なぜだろう。これは大人になった今でも言葉で表すことができない。
この気持ちを表現できる日本語と出会うために私はこうして書いているのかもしれない。

ドラクエは1から8までプレイしたのだが、このⅤだけは未だにクリアしていない。
大人になった今ならクリアできるのだろうか?
果たしてどんな気持ちでプレイするのだろう。
確かめてみたい気もするが、あの頃の記憶が余りにも鮮明に残っているため手が出せないでいる。

好きなゲームの話になると必ずといっていい程出てくるドラゴンクエストⅤ。
不用意にビアンカフローラ論争を吹っ掛けるのは考えものだ。
愛や人生における価値観が現れる質問ととらえた方がいい。
さらにいうと、「フローラを選んだ」と答えた人間を秒で罵るのは避けるべきだ。
私のように、ゲームにのめり込み過ぎた人間なだけなのかもしれないのだから。

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