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チルワールドで短歌を読もう!~歌人かさねの短歌旅#1

 高校入学時のテストにて国語の偏差値82を取ってしまい担任に呼び出されたことで、事情を知らない同級生からとんでもない問題児扱いを受けたことがあります。皆様こんばんは、限界文系ぶいちゃ民こと、かさねです。

 さて皆様はVRChatに数多く存在するチルワールドをどう楽しんでいますか?フレンド達とまったり雑談?それとも綺麗な写真を撮るべく珍妙な体勢で四苦八苦?

 どちらにせよ、チルワールドというものは楽しむのが難しい印象があります。せっかくの丹精込めて作られたワールド。ゲームワールドのように何時間も居座ってハイスコアを競う!とはいかなくても、何かしらの行為を持って楽しみたい。

 そこでかさねは、一つの案を思いつきました。

 どんなチルワールドでも簡単に実行でき、ワールド制作者の意図や思いを最大限に楽しめる。

 そんな名案。それはそう、短歌です。

言語中枢をぶん回せ!!!

 短歌。それは万葉集の頃から伝わるトラディショナルでエキサイティングな文化。五・七・五・七・七、という基本の型の中に感情や情景を叩き込む和歌の一種。

 VRゴーグルを付け、大量のケーブルとトラッカーに包まれて生活しているサイバー人間たる我々からすると縁遠いものですが、短歌は日本人の魂に刻まれているものです。俵万智は「生きていること自体が、ある意味全部歌の種」と言っていましたが、あれはバーチャルでも同じこと。お気持ち表明をするぐらいなら全部短歌で詠んでしまいましょう。

 とはいっても日頃カタカタとキーボードを叩きHello,New Worldしてる皆様が詠むのは些か難しいでしょうから、この文系の極地たるかさねが詠み方をお教えしましょう。散々ムンソム(韓国語で「文系ですいません」を意味するスラング)と自虐してきたこの私が日の目を浴びる時です。

 短歌で重要なのは隠喩。寂しい時に直接「寂しい」と詠むのは陳腐ですから、アイドルがインスタグラムでやる匂わせ投稿並みに遠回しな表現をしてやりましょう。

 ついでに重要なのは物語性。短歌は言葉によるスケッチ、と言われるぐらいですが、単に風景を切り取るだけでなくそこにある営みの痕跡を描き出してやればあっという間に名句の出来上がり。

 これぐらい学べば後はもう大丈夫。短歌に五・七・五・七・七、というルール以外はありません。いやそのルールですら近年は割と無視されています。どうせ素人、適当に詠むところから始めましょう

 今回訪れたのは親愛なるMy friendが制作したワールド達。短歌はどこでも詠める、といっても場所は大切です。確実に綺麗で、確実に物語性のある良い場所を選びましょう。

一人旅でも大丈夫!短歌が詠めればね!

 ということで一か所目。『旅館「待宵」-inn matuyoi-』。

 大きな旅館のような構造で、客室や露天風呂まで用意されたチルワールドです。

こういう旅館に泊まりたいなって年中思い続けてる

 窓からは綺麗な月と神社。実に旅情的ないいワールドですね。早速ここで一句詠んでいきましょう。ちなみに一枚写真を撮ってから句を詠むと創作しやすくてお勧めです。

旅館によくあるこの最高な場所。名前は広縁(ひろえん)

 一人旅 余る広縁 眺むるは 藍の水面と 浮かぶ月

 う~ん実にそれっぽい!それっぽいですね!!!

 短歌の良い所の一つとして、現代人に浸透していなさ過ぎてほとんどの人が評価できないという所があります。

 この句にしても、

 綺麗な月が窓から見える湖と手に持った湯飲みに入った茶、どちらにも反射していて一人旅の孤独を忘れるほどに綺麗だ。

 という説明を付けてしまえばとてつもない名句のように思えます。やはり短歌は最高の遊び。ガンガン詠んでいきましょう。

ベッドが広くて寂しいなって気持ちすら歌に詠め

 熱帯夜 疎むぬくもり 求めては 共寝を望む 仮想の夜更け

 は~!最高!!!

 かさねはあまりV睡をするタイプではありませんが、文化としてはかなり気に入っています。夜中でも三十度を超えるこの酷暑。現実であの距離に人が寝ていれば暑苦しくて仕方ありませんが、バーチャルならそんなのお構いなし。

 そんな仮想世界の面白さを詠んだ一句が出来上がりました。

花にはかなり疎いですが多分奥の木は藤

 句を詠めそうな場所を探して放浪していると、良さげな露天風呂を見つけました。こういう所で句を詠むのは間違いなく最高の体験。

 適当に腰を据えて筆を取るか……と思ったところでふと気づきます。単純に綺麗な景色で句を詠み続けるのはありきたりでは?、と。

短歌はどこでも詠めるもの。せっかくだからもっと地味な場所で詠んでみましょう。

旅館によくあるこういう場所好き

 濡髪を くぐる熱風 思い馳せ 渇きを癒す しばしの孤独

 まるで小説の一場面のような圧倒的物語性ですね。

 恋人と温泉に来て、彼女が髪を乾かすのを待っているあの時間も短歌に変えてしまえばエモの塊。髪の毛が乾く、と喉の渇きも掛けて表現としての美しさもバッチリですね!そんな経験ないけど!

あぁ故郷よ……

所変わって次のワールド。『幻翠-Gensui-』。

 こちらは田舎のおばあちゃん家の様な雰囲気のワールドで、スイッチを押せば雨にも夜にもなる多角的チルワールドです。

 筆が乗りに乗っています。片っ端から詠んでいきましょう。

そろそろ気づいてきたけど本当に写真を撮るセンスがないね

 遠き日の 祖母の思い出 懐かしく 怒りか愛か あの眼差しは

 少し悩みましたが、何だかんだ良く纏まりましたね。

 祖母の思い出、という部分は単純に祖母との思い出なのか、それともあの日祖母の心に刻まれたであろう彼女自身の思い出なのか。

 後先考えず河で遊ぶ孫をどう思っていたのか含め、亡き人に思いを馳せるいい句ですね。ジジコン、ババコンをこじらせているかさねの目から涙がこぼれます。

夜に変えると風景も様変わり

 眺めるは 飛んで火にいる 夏の虫 儚くも散る 欲と無鉄砲

 何というか、ここまでで一番駄作な気がしますね。飛んで火にいる夏の虫、という言葉を句に入れようと思ったら下の句がとっ散らかってしまいました。やはり短歌はインスピレーション。ねずっち並みの反応速度を保つことが重要ということでしょう。

ちなみにかさねの寝相は割といいとされている

 大股を 開き眠るは 夏の夜 直に響くは 蝉か怒声か

 これは割とユーモアがあって好きな感じの句になりましたね。夏休みのおばあちゃん家となるとつい惰眠を貪ってしまいますが、別に母親から逃れたわけではありません。こんな体勢でのんびり寝ていれば、信じられない勢いで叩き起こされてしまうでしょう。たった一句に朝までの数時間が詰まった凝縮の一句です。

 本当はもう一つワールドを巡って句を詠んだのですが、あまりにも興が乗りすぎてしまいました。今回は一旦ここまでということにしておきましょう。

俺ってば才能に満ちすぎてないか?

 今回のバーチャル短歌旅はここまで。思いつきで始めた割にはあまりにも才能が溢れ出していましたね。これを読んでいる人は、「必死に頭を捻って詠んだんだろうなぁ……」とお思いでしょうが、なんとどの短歌も数分のシンキングタイムで編み出されたもの。これがスーパー文系人間の力ということです。

 理系の人々が華麗に数式を書く姿を羨んだとき、フレンドが新しくチルワールドを作ったとき、V睡しているフレンドの元に一風変わった書置きをしようと思ったとき。VRChatをする上で短歌を詠むタイミングは無限大。

 是非皆様も気軽に詠んでみましょう。作り上げろ!お前だけの古今和歌集を!!!

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