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”原子力発電を使わないと、脱炭素の達成は難しいしお金がかかる”というIEA報告書が出ました。

ざっくりまとめ

  • 原子力発電はCO₂を放出しない電源であり、2050年ネットゼロ(=温室効果ガスの排出をなくすこと)を達成するために有用です。

  • 電力供給の主力は再エネなので、太陽光や風力を増やすのは必須です。しかし同時に原子力も増やすことで、太陽光や風力の弱点を補って、安定した電力供給が可能です。

  • 原子力は建設期間が遅延したり、想定外に費用が高くなったりするので、きちんと予定通りに進められるようにすることが大事です。さらに安く使えるようにできればなおよいです。

めんどくさい場合は、IEAって組織が「原子力発電、必要だよ~」って言ってるとだけ覚えといてください。
本文では、なんで原子力が必要なのか、原子力はどう役に立つのか、原子力の課題は何か、という話をしています。

IEA報告書を取り上げた日経記事もあります。わかりやすくてよいです。

本文に入る前に、そもそもIEAとは?

日本語では国際エネルギー機関(International Energy Agency)という名前で、世界各国が安定してエネルギーを供給できるように、データ分析や政策提言を行う組織です。

もともとは、石油を安定して供給するための組織でした。IEAには31の国が参加していますが、参加条件のひとつに『前年度の純輸入量の90日分に相当する原油および/または石油製品の備蓄』があります。いざとなったら助け合えるように、ある程度の余力を持っていることを求めているんですね。
現在は、再生可能エネルギーなども含めて、世界全体での持続可能なエネルギーの安定供給を目指して、その役割を拡大しています。

IEAをもっと知りたい場合は以下を参照

そんなIEAが「脱炭素のために原子力発電は必要だよ」という報告書を出しています

以下、IEA報告書から引用しつつ概要を確認していきます。英文および図表はIEA報告書からの抜粋です。順番は入れ替えており、太字は私がつけたものです。正確な和訳ではなく、「だいたいこういうことを言ってるよ」という趣旨なので、怪しいなとおもったら英文読んでください。翻訳にはDeepLをどうぞ。
また、英文長文どんとこいという方は、末尾に原文リンクを貼っているので、そちらをご確認ください。読めるなら絶対原文のほうがいいです。

原子力発電を使うことで、火力発電を早く減らせる

Nuclear energy can help make the energy sector's journey away from unabated fossil fuels faster and more secure. Amid today’s global energy crisis, reducing reliance on imported fossil fuels has become the top energy security priority. No less important is the climate crisis: reaching net zero emissions of greenhouse gases by mid-century requires a rapid and complete decarbonisation of electricity generation and heat production. Nuclear energy, with its 413 gigawatts (GW) of capacity operating in 32 countries, contributes to both goals by avoiding 1.5 gigatonnes (Gt) of global emissions and 180 billion cubic metres (bcm) of global gas demand a year. While wind and solar PV are expected to lead the push to replace fossil fuels, they need to be complemented by dispatchable resources. As today’s second largest source of low emissions power after hydropower, and with its dispatchability and growth potential, nuclear – in countries where it is accepted – can help ensure secure, diverse low emissions electricity systems.

原子力発電は、CO₂排出量の大きな火力発電を早く減らすために役立ちます。
なぜか「再エネ vs 原子力!」と対立させられることが多いですが、当面の気候変動対策を考えるなら「低炭素電源 vs 化石燃料!」です。再エネも原子力も同じ低炭素電源で、気候変動と戦うための仲間なんです。ほら、怖くない…
(もちろん、放射性廃棄物のような原子力固有の課題は解決しなければなりません)

ちなみに、2020年の実績を見ると、低炭素電源の中で一番発電量が多いのは水力です。次が原子力で、以下、風力、太陽光…と続きます。(下図参照)

低炭素電源の発電量(2020年)を比較したグラフ。
原子力発電は水力の次に大きな低炭素電源です。
風力と太陽光はもっと増えてもらわないと困りますね。

そして、IEAの推定によると、2050年ネットゼロを達成するためには、原子力発電所を倍増させる必要があります。
下図右端が2050年の目標です。G7、中国、その他途上国が、それぞれ3分の1ずつ発電所を保有していますね。いや中国スゴいな。1国でG7合計と同じくらいの設備を抱えることになります。いやスゴいな。

濃い緑がG7、青が中国、水色が途上国です。
G7は原子力発電所を今くらいの規模で維持する必要があります。
中国および途上国は2020年から見て5倍ほど増やす必要があります。
(人口を考えるとインドも多くの原子力発電所が必要な気がします)

原子力発電は開発済みの低炭素電源として重要な役割がある

As an established large-scale low emissions energy source, nuclear is well placed to help decarbonise electricity supply. In the IEA’s Net Zero Emissions by 2050 Scenario (NZE), energy sector emissions fall by about 40% from 2020 to 2030, and then decline to zero on a net basis by 2050. While renewable sources dominate and rise to nearly 90% of electricity supply in the NZE, nuclear energy plays a significant role.

原子力発電は、すでに技術ができあがっており、大きな電力をCO₂排出なしで作ることができます。このため、2050年にネットゼロを目指すために必要な電源として計画に組み込まれています。
せっかく使える低炭素電源なんだから、しっかり役割を果たしてもらわないと困るわけです。


原子力発電はこれまでのCO₂排出低減に役立っている

Without the contribution of nuclear power, total emissions from electricity generation would have been almost 20% higher and total energy-related emissions 6% higher over that period.

これまでの実績として、1971年から2020年の約50年間を振り返ると、原子力発電がなければ発電に伴うCO₂排出量は20%増えていただろうと推定されています。
ちゃんとCO₂排出削減の役に立っているようで、よかったですね。


原子力発電を使わないと、その分再エネを増やすことになるけど、これがめっっちゃ大変

Less nuclear power would make net zero ambitions harder and more expensive. The Low Nuclear Case variant of the NZE considers the impact of failing to accelerate nuclear construction and extend lifetimes. In this case, nuclear’s share of total generation declines from 10% in 2020 to 3% in 2050. Solar and wind would need to fill the gap, pushing the frontiers of integrating high shares of variable renewables. More energy storage and fossil fuel plants fitted with carbon capture, utilisation and storage (CCUS) would be needed. As a result, the NZE’s Low Nuclear Case would require USD 500 billion more investment and raise consumer electricity bills on average by USD 20 billion a year to 2050.

原子力が少ない場合はどうなるか、と検討してみると、2050年ネットゼロ達成は、より難しく、より高価になります。
原子力を使わない場合、蓄電池を大量に導入したり、CO₂回収機能付き火力発電を使ったり、送電網を強化する必要があります。すると、原子力を使う場合と比べて、年間約200億ドル(約2.6兆円)の追加投資が必要になります。


原子力と再エネはお互いに補い合う

Nuclear and other dispatchable power sources complement renewables by providing critical services to electricity systems. The predominance of wind and solar in the power mix and the end of unabated fossil generation must be complemented by a diverse mix of dispatchable generation to provide stability, short-term flexibility and adequate capacity during peak demand periods. For example, in an analysis of a carbon neutral power system in China, nuclear would provide only 10% of total electricity produced in 2060, but supply almost half the required inertia, a key component of system flexibility.

電源は「これさえあればOK!」というものではなく、いくつかの組み合わせによって安定させるのがよいです。
たとえば、中国の計画における原子力発電は、発電量では10%を占めるのみですが、電力システムの安定性を半分くらい請け負っています。
大量の再エネに原子力をひとつまみ加えることで、安定かつ低炭素な電気が作れるんですね。
(Inertiaを安定性と訳すのは乱暴すぎるかもしれません)

2020年(左)と2060年(右)の中国の電源構成。
一番上の安定性では、原子力(橙)が約半分を占めています。
反して、一番下のエネルギー供給源では、再エネ(黄)が約半分を占めています。

原子力発電所の運転期間を伸ばすのは比較的安くて役に立つ

Extending nuclear plants’ lifetimes is an indispensable part of a cost-effective path to net zero by 2050. About 260 GW, or 63%, of today’s nuclear plants are over 30 years old and nearing the end of their initial operating licences. Despite moves in the past three years to extend the lifetimes of plants representing about 10% of the worldwide fleet, the nuclear fleet operating in advanced economies could shrink by one-third by 2030. In the NZE, the lives of over half of these plants are extended, cutting the need for other low emissions options by almost 200 GW. The capital cost for most extensions is about USD 500 to USD 1 100 per kilowatt (kW) in 2030, yielding a levelised cost of electricity generally well below USD 40 per megawatt-hour (MWh), making them competitive even with solar and wind in most regions.

古くなった原子力発電所をもうちょっと長く使うのは、お安く低炭素電源を確保するためによい方法です。運転期間延長という制度で、日本でいえば、もともと40年間使う予定だったものを、追加でもう20年(合計60年)使うことが考えられています。
そこそこお買い得で、地域によっては太陽光や風力と同じくらいのコストで達成できます。

なお、新しい原子力発電所の建設も必要です。
今ある原子力発電所は、多くが1970-1980年代に建設されました(下図の下の方)
これが40~60年くらいで老朽化して解体されるので、2020-2040年代には、その代わりを建て直す必要があります(下図)。

赤い線引いたところが、今ある発電所を建設した時期。
黄色い線引いたところが、建て直しが必要になる時期。

エネルギーの安定供給には複数の電源を用意するのが大事。ついでに…

Energy security concerns and the recent surge in energy prices, notably in the wake of Russia’s invasion of Ukraine, have highlighted the value of a diverse mix of non-fossil and domestic energy sources. Belgium and Korea have recently scaled back plans to phase out existing nuclear plants. The UK Energy Security Strategy includes plans for eight new large reactors. Faster restarts of Japanese nuclear reactors that have received safety approvals could free up liquefied natural gas (LNG) cargoes desperately needed in Europe or other markets in Asia.

エネルギーを安定供給するために複数の電源が使えるのが大事……という話と一緒に、日本が原子力発電所を再稼働すれば、浮いたLNGをヨーロッパやアジア諸国に回せるんだよ、と指摘されています。

どういうことかと言うと、侵略国であるロシアを経済的に締め上げたいですが、そうするとロシアにある豊富な化石燃料が使えなくなり、世界中で燃料不足になります。なってます。
ロシアからのLNG輸入に頼っていたヨーロッパは一気に燃料が足りなくなり、次の冬のエネルギー供給がめちゃくちゃしんどいです。かといって、半年で再エネ設備を急に増やすのは難しいです。
そこで、日本が原子力発電所を再稼働すれば、その分火力発電を使わなくてよくなり、LNGを余らせることができます。余ったLNGを困っているヨーロッパにまわしてくれれば、ロシアに(そんなに)頼らずにエネルギーが確保できて万々歳!ということです。いやでも化石燃料使っちゃってるから万々歳は言いすぎかも……万歳くらいにしておきましょう。
各国が複数の電源を選んで使えるようにしておけば、国同士で融通を利かせることができるようになるんですね。


原子力発電所での水素製造は期待できるかも

Using electricity from nuclear to produce hydrogen and heat presents new opportunities. The rapid expansion of low emissions hydrogen is a key pillar of the NZE, with related investment rising from near zero today to USD 80 billion per year to 2040. Under the NZE’s cost projections, hydrogen production via natural gas with CCUS or via electrolysis using renewables are the cheapest options. For nuclear to compete with these alternatives, investment costs would need to decrease to USD 1 000‑2 000/kW. The economics would be more favourable if the nuclear reactor is co-located with a hydrogen user, avoiding transportation costs. The NZE estimates surplus nuclear electricity could be used to produce an estimated 20 million tonnes of hydrogen in 2050. There are also possibilities to co-generate heat from nuclear plants to replace district heating and other high-temperature uses, though the potential scale of this market is limited and construction costs would need to fall to USD 2 000‑3 000/kW to make it competitive.

水素は、電気と違って保存しておくことができるので、今後のエネルギー安定供給で活用できると期待されています。また、電化することが難しい産業において、脱炭素燃料として活用できる可能性もあります。その水素を作るためには電気と熱が必要です。
原子力発電所は、発電のためにとんでもない熱量を生みますが、その熱量をすべて電気に変えることはできません。なので、余っている熱があります。
そこで、原子力発電所に水素製造装置を置いて、作った電気と熱を水素製造装置に渡してやれば、効率よく水素を作ることができます。
コスト競争力の課題はあるものの、うまくいけば安定した水素製造拠点になれるかもしれません。英米などで試験が進んでおり、水素サプライチェーンの一環として期待されます。


今後、いくつかの国で原子力発電の活用が進められる計画

While renewables would provide the largest share of low emissions electricity and many countries either do not foresee the need or do not want a role for nuclear power, a growing number of countries have also announced plans to invest in nuclear.
The United Kingdom, France, China, Poland and India have recently announced energy strategies that include substantial roles for nuclear power. The United States is investing in advanced reactor designs.

原子力を使わない国もありますが、使おうとする国は増えてきています。
具体的には、イギリス、フランス、中国、ポーランド、インドは、原子力の活用を計画しています。また、アメリカはもっと使いやすくて安全で低価格な原子炉を支援したり、古い原子炉を延命させたり、かなりの金額を投資しています。

なお、先にも述べたとおり、IEAは「原子力を使わないという判断も尊重するよ!」と一筆添えています。
やはり難しい技術なので、再エネ資源が豊富な国であれば、使わないという選択肢もあるだろうと思います。


原子力発電が役割を果たすためには、工期と予算を守ること

The industry has to deliver projects on time and on budget to fulfil its role. This means completing nuclear projects in advanced economies at around USD 5 000/kW by 2030, compared with the reported capital costs of around USD 9 000/kW (excluding financing costs) for first-of-a kind projects. There are some proven methods to reduce costs including finalising designs before starting construction, sticking with the same design for subsequent units, and building multiple units at the same site. Stable regulatory frameworks throughout construction would also help avoid delays.

以上のように期待される原子力発電ですが、解決すべき課題として、当初計画された工期と予算を守ることが必要です。なぜなら、最近の原子力プロジェクトは年単位で遅れることが多いので……。
工期が遅れると建設にかかる費用が高くなり、するとそれを回収するために電力価格が高くなってしまいます。(下図参照)

水色の点が当初予定してた建設期間&電力単価。
矢印が右に伸びるのは建設期間が伸びてしまったもの。
矢印が上に伸びるのはコストが高くなってしまったもの。

This is due to several factors including a low level of design maturity at the onset of construction, challenges with project management, regulatory changes during the construction period and delays in parts manufacturing in the absence of an active supply chain.

遅れの原因は、初期段階の設計が上手くいかなかったり、プロジェクト管理に失敗したり、いくつかあります。プロジェクトの規模が大きく、品質管理も非常に厳しいといった要素はあるものの、「こうしたら失敗しにくいよ」というノウハウは溜まってきているので、上手く活用して予定通りに建設しなければなりません。


原子力発電の良いところが評価される制度がない

Current power market designs fail to adequately remunerate two benefits of nuclear power generation. Nuclear power is a dispatchable resource that is able to generate during periods of system stress, when load is approaching the level of available supply capacity. This contributes to the secure operation of the system, avoiding costly outages that cause economic and social harm. This service could be compensated through either a separate capacity payment or through unfettered market pricing arrangements that account fully for the ability of resource to secure against shedding load, sometimes called “scarcity pricing”. However, most markets today limit prices from reaching the levels associated with the value of lost load through price caps, and without a supporting capacity mechanism, deprive operators of dispatchable capacity of revenues.

原子力発電は、供給量がギリギリになって負荷がかかる状況でも発電ができます。なので、停電を防ぐことに貢献できます。(ここよくわかっていません。慣性力の話…?)
停電が起きるとめっちゃ経済損失することを考えれば、原子力発電に対して「停電を防いでくれている分のオマケをあげよう」という”電力安定ありがとう費”が与えられてもよいはずです。が、そういう制度にはなっていません。

Most power markets also fail to reward the low-carbon attributes of nuclear power.Where they exist, carbon prices rarely approach the levels needed to reach net zero emissions. For example, the most recent auction of allowances for the Regional Greenhouse Gas Initiative, which covers 11 states in the eastern United States, yielded a CO2 price of just USD 13/t– far below the prices that are required to spur deep decarbonisation. In addition, in many countries support for clean energy production like production and investment tax credits and feed-in-tariffs excludes nuclear power from subsidies or other support mechanisms that are available to wind and solar.

低炭素電源であるということも、正しく評価されていません。
アメリカでは、CO₂価格が13 $/tonで取引されました(これは2050年ネットゼロを目指すのであればまったく不十分な価格です)。こうした価格付けがうまくできれば、火力発電は割高になり、再エネや原子力が価格競争力を持つことができます。
しかし、こうした制度から原子力は除外されていることが多く、低炭素電源なのに評価されない状態になっています。

個人的には、太陽光や風力をめっっっちゃめちゃ増やさないといけないという背景があるので、優先順位として原子力への支援が少なくなるのは仕方ないかなと思います。
とはいえ、以上の議論のように有用な点があるわけですから、それを活かせる程度には支援しておくれやす、という感じですね。


低炭素電源を評価できる市場とは?

低炭素電源を評価する制度の例として、下図で説明されています。
縦軸が電力価格です。再エネ(水)と原子力(青)が安く、石炭(黄緑)、天然ガス(緑)、CCUS付き石炭火力(黃)と高くなっています。
斜めの黒線は需要を示しています。ざっくり言うと黒線より左にある分だけが売れます。それより右にあるものは、価格が高すぎて売れません。
左の図でいうと、黒線より左にある再エネ、原子力、石炭、そして天然ガスの一部までが売れます。完全にはみ出しているCCUS付き石炭火力(黄)は価格が高すぎるので売れません。この場合、CCUS付き石炭火力(黄)のほうがCO₂排出量は少ないのに、「売れるから」という理由で普通の石炭火力を使うことになってしまいます。
そこで、右の図のように、石炭や天然ガスを使う火力にはCO₂を放出する分のペナルティを与えます。すると、CCUS付き火力を使うほうが割安ということになり、経済的に自然な形でCO₂排出を減らすことができます。

言うは易し。

原子力の国際的リスク

Advanced economies have lost market leadership. Although advanced economies have nearly 70% of global nuclear capacity, investment has stalled and the latest projects have run far over budget and behind schedule. As a result, the project pipelines and preferred designs have shifted. Of the 31 reactors that began construction since the beginning of 2017, all but 4 are of Russian or Chinese design.

原子力開発において、先進国はリーダーシップを失っています。
2017年以降に建設開始された原子炉は31基ありますが、そのうちの27基は中国またはロシア製です。

原子力発電所全体で見ても、古い原子力発電所は欧米に多く、新しい原子力発電所は特に中国に多いです。(下図参照)

横軸は原発の年齢、右に行くほど古い。縦軸はその年齢の原発の量。
36歳の原発が一番多くて、ほとんど欧米(青、水色)にある。団塊世代がみんな欧米にいる感じ。
10歳までの新しい原発は、ほとんど中国(赤)にある。Z世代がみんな中国にいる感じ。

ウクライナ侵攻で、ロシアが化石燃料輸出を交渉カードに使っていることからもわかるように、ある国にエネルギー供給を依存しすぎるのは危険です。
エネルギーを輸入に頼っている国(ウクライナ侵攻においてはヨーロッパ)は、輸出国(ロシア)に「化石燃料売るのやーめた!」とされると、いきなりエネルギー不足になって、電気代や物価が高騰したりインフラが止まったりして、経済がめちゃくちゃになってしまいます。なので、輸入国は強気に出にくくなってしまうんですね。
同じことが原子力で起きるかは微妙なところですが、中露が原子力技術でトップを走る状態は、昨今の情勢を見るとすこし怖いです。

Through the Rosatom subsidiary TVEL, Russia supplies nuclear fuel to 73 Russiandesigned (VVER) reactors inside Russia and in other countries, including Ukraine, Belarus, Armenia, Bulgaria, Finland, the Czech Republic, Hungary, Slovakia, China, India and Iran, making up around 16% of the world market in 2020. CEZ, the Czech state-owned electric utility, recently announced it will obtain its fuel supplies for its Temelin nuclear power station from two western suppliers from 2024.
Russia plays an even more significant role in the production of uranium fuel, accounting for 38% of uranium processing (conversion) worldwide and over 45% of fuel enrichment capacity in 2020. Much of the uranium processed and enriched by Russia is sourced from Kazakhstan, which was responsible for 41% of global uranium production in 2020.

また、原子力発電所そのものだけではなく、原子力発電所で使う燃料について、ロシアは主要な役割を持っています。
天然ウランを燃料として使えるように加工する工程のうち、転換と濃縮という重要なステップで、それぞれ38%と45%という大きなシェアを持っています。

今、欧米は「ロシアの化石燃料を買いたくない…!」という流れですが、「ロシアの核燃料も買いたくない…!燃料がなんもない…!」となるかもしれません。
アメリカでは、核燃料を自国供給できるようにしよう!という動きが出てきています。


原子力を活用するための7つの提言

まとめとして「原子力を使いたいなら以下のことをするといいよ」という、7つの提言が挙げられています。

曰く…

  1. 既存原発の運転期間を延長するべし。

  2. 脱炭素や安定性向上などの、電力供給以外での貢献を評価できる市場設計を導入するべし。

  3. 新しい原子炉を支援するための資金調達の制度を整えるべし。

  4. 効率的、かつ効果的な安全規制を導入すべし。

  5. 放射性廃棄物を処分するための方法を確立すべし。その過程には市民を参加させるべし。

  6. SMRの開発を進めるべし。また、SMRによる電気、水素、熱を上手く活用できる機会を探すべし。

  7. 計画して終わりではなく、経過を踏まえて計画を再修正すべし。

とのこと。
廃棄物とかSMRの話は、ちゃんと報告書に載っているんですが、長くなりすぎるので本記事では端折ってしまいました。


まとめ

とにかく気候変動がヤバいので、脱炭素を急がないといけません。
今回の報告書は、そのために原子力が役に立つ(ただし工期をちゃんと守って安くしないとダメ)ということ、そしてその場合はどうするべきかということを示しています。

私個人の考えは…

原子力はリスクのある電源ではあるけれど、気候変動対策のために活用が必要だと考えています。
気候変動の悪影響は、まず貧しい国や人に向かうことになります。しかも、そういった貧しい国は現在進行系で電気が足りなくて困っている人がいます。
そうした人がいるのに、先進国で「原子力使っても大丈夫かな…どうかな…」って悩みながらCO₂排出を続けるのは、不正義だと思います。
(正義って何だ?という議論は於きますが、ここでは「ちゃんとバランス取ろうぜ」くらいの意味で使っています)

気をつけないといけないのは…

急ぐあまり、半端な体制のまま原子力を活用しようとして、安全をおろそかにすることは避けなければいけません。そういう意味でも、原子力を使うのかどうか、立場をはっきりさせて、政治・産業・規制・自治体・住民などで対話を行うことが重要です。

あと、放射性廃棄物の処分はどうしても時間のかかるプロセスなので、こういう世論の変化によらず、着々と進めていただきたいなと思います。

ちなみに他に原子力が評価されている例として…

EUにおいても、EUタクソノミー(投資すべきよい技術を集めたリスト)に原子力が(条件付きで)採用されるなど、必要性が徐々に再評価されつつあります。

今後も議論は続くでしょうが、今回のようにIEAという大きな組織から「原子力は必要だよ」という報告書が出たことは、ひとつのステップです。

日本では…

岸田内閣がどこまで踏み込むかわかりませんが、本気で脱炭素社会を目指すなら、原子力活用を進めることは必須と思います。政治の方針を明確に打ち出すことと、制度面での支援と、規制の効率化を期待します。

などと書いている間にちょっと踏み込んでいました。今後に期待です。


IEA報告書の原文を確認したい方はこちら

以下が概要版。

以下リンクは報告書全文。

https://iea.blob.core.windows.net/assets/0498c8b8-e17f-4346-9bde-dad2ad4458c4/NuclearPowerandSecureEnergyTransitions.pdf


ご覧いただきありがとうございます! 知りたい内容などあればご連絡くださいね。