転生物語-中編−


『昔むかーし、だけど、昨日の事かも知れないお話。月の国には月の巫女と呼ばれるそれはそれは美しいミツキという女性が居ました。ミツキは一生に一度、たった一度だけの恋をしました。

月の巫女ミツキは生まれながらにして不思議な力を持っていました。
その身を削りながら人々の幸せを歌い、発展を舞う、そうやって少しずつ命をかけて人々を幸せにすることがミツキの使命でした。
ある日、ミツキがいつものように天の川で祈りを捧げていると強く眩しい光が差込みました。

「そこにいるのは誰だ?」

力強いその声は初めて聞く暖かさと優しさに包まれていました。
その風格から明らかに自分よりも目上の人物だとすぐに理解し、ミツキは膝をつきました。

「私は月の巫女、今はお勤め中でございます。」

そう言って相手に頭を下げると相手からの豪快な笑い声が聞こえてきました。

「あっはっはっは!お邪魔したのは私の方だ!そんなに低くならずに顔を上げてくれ。」

言われるがままに顔を上げると太陽の光のように眩しい笑顔の男性が立っていました。
途端にミツキの心臓は跳ね上がり、一瞬で恋に落ちました。
それは男も同じでした。
天の川の光に透ける美しい白い髪と肌、切れ長の黒い芯の強い瞳に、男は見惚れてしまいました。

「私は太陽神ゴウエン、そなたの名は?」

「私はミツキと申します、月の巫女でございます。」

男は全ての創造の源といわれている、太陽の国の王でした。
二人はお互い一目で恋に落ち、
太陽の国の王と身を削って人々の為に生きる運命の月の巫女。
身分違いな恋に二人の運命は狂っていくのでした。』

幼い子供のお気に入りのお伽話の絵本、家の窓から遠くに見える天の川と月の物語、届かないその距離、だけど目に映るその景色に想像が膨らんだ。
何度も繰り返し読んだその絵本。

『オウキは本当にその絵本が好きなのね。』

『うん!ゴウエンは守る為に月の巫女をさらったんだ!救ったんだよ!』

『そうね、太陽神様はとても優しくて暖かい人って言われてるものね。』

『そうだ!だから決して月の国を滅ぼす為に悪いことをしたんじゃないんだ!だから僕はいつか月の国の人々にちゃんと説明してあげるんだ!月の巫女は太陽神と幸せに生きたんだって!そして月の国はそれでも発展したんだって!』

『じゃあオウキも沢山勉強して強くならなきゃね。』

『うん!!ねぇママ?僕もいつか月の巫女と会えるかな?』

『そうね、オウキが大人になる頃には太陽の国と月の国が仲良しになってると良いわね。』


幼い頃の思い出、昔大好きだった絵本で読んだ事があった物語がずっと胸の奥で熱く残っていた。
女みたいな趣味、や子供みたいと揶揄われるのを避けるように段々と読まなくなったその絵本。
オウキは思い出すだけで胸の奥がくすぐったくなった。


時は過ぎ、オウキは立派に成長していった。
太陽の国サンランドで雷の魔術に長ける雷炎の戦士としてその名を轟かせていた。
オウキは太陽神であるサンランドの王に若くから仕えていた。
忠実であり、知識もあり、魔術にも長け剣術も使える。
そんなオウキが出世するのは不思議な事ではなかった。

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