嬢恋歌物語

外から聞こえてくる煩い程の蝉の声。
そんなに必死で生きて何か意味があるんだろうか。
一夏しか生きれず、人間にも気持ち悪い、煩いと嫌われ。
それでも自分は此処に居る、生きていると言う存在証明。
承認欲求の塊のただ生きているだけのソレに与えられた命は誰の為に存在するんだろう。
大嫌いな蝉が自分と重なり死にたくなる。
大嫌いな夏が今年も始まる。


女達には名前がなかった。
人は皆それぞれに好きな物を名と呼び、それに嬢とつけて呼ばれる。
好きな物が無い女は自分を「空蟬」と呼んだ。

「空蟬嬢?変わった名前を付けたんだな。」

「この世に現に生きている人。と言う意味でございます。」

男に聞かれるとそう答える。
この世に好きな物など存在しない。
ならば一番嫌いな物、しかもそれですら無くなった物。
抜け殻、大嫌いな蝉すらも捨てたゴミ屑。
女は希望も持たずただ生きているだけの人。
「空蟬」とは自分にお似合いの言葉だった。

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