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雲を浴びる

先週の金曜夜、控えめに言っても疲れていた。

次の日が休みだから今のうちにと進めたものの時間をかけた割に進んでいない仕事、人が少ない夜の駅で1時間に数本しか走らない電車を待つ寂しさ、翌週に待ち受けるやったことがなくイメージもはっきり描ききれていないものの絶対に失敗できない事柄、色々なことが頭の中を飛び交う中で、「疲れた」という結論だけがはっきりと浮き上がっていた。

とりあえずTwitterを見るのをやめた。

私は物事の切り替えが下手だ、そして、色んな人の何気ない言葉を眺めてはそれにいちいち思考を巡らせるのが得意だ。こんなときにそんなことをしていると、疲れが増すのは明らかだった。

誰かが「いいね」していた見ず知らずの他人のツイートが表示されたり、フォローしている人が知らない誰かとリプライを交わすのがランダムに現れる仕様にもうんざりしていた。そいつのことは特に興味がないのに、勘違いしたTwitterさんが何度も表示してきてしつこい。見ず知らずの人間なのに嫌いになりそうになる。フォローしていないということは、つまりそれが全てなんだとTwitterさんには早く理解していただきたい。

そんなこんなでよく使うアカウントをアプリ上からログアウトさせて、「見ない」環境を作り上げた。

いちいち細かなことに思いを巡らせてしまうほどTwitterに依存している人間がこんな環境を作ったところで、他人の動向が気になってうずうずしてしまったり、小さなことも人に伝えたくなってしまうんじゃないかと思ったけれど、何も入ってこない環境は案外心地よかった。帰宅すれば同居人と話ができ、そのまま休日に入り元々予定していた用事もあって、SNSを開く必要があまりなかったというのもあるかもしれない。

あと、これはたまたまだけど、休みの間、絶対に携帯電話を触らない場所に行った。そう、お風呂である。

最近友達が流行りのアーティストの名前をもじって湯巡りの様子を呟いていたけれど、これもその活動と同じかなと考えながら、石が敷かれた部屋の中でうつぶせになる。最初の5分はうつぶせ、その後10分は仰向け、部屋の入り口に掲示されてあるサイクルを律儀に守る。私はそういう女なので。

そうするうちに粒のような汗が流れてくる、余分なものが流れ出た気がして満足する。もっと時間をかけてこの部屋にいたらもっと余計なものが流れ出て痩せるだろうかなどと考えつつも、仰向けの体勢でじっとしていられなくなったら部屋を出る。こんなくだらないことばかり考えているので、部屋を出る頃にはすっかりのぼせあがっていた。くだらない考えというか、単に仰向けの途中で寝落ちてしまったからなんだけど。

珍しい部屋にも入った、まるで雲海のような環境で岩盤浴を楽しめる部屋らしい。ミストが雲を演出している。このミストがナノサイズでお肌によく浸透するなんてアナウンスが流れていたけれど、そんなもので私の乾燥肌が治れば苦労しないんだが。

ミストが雲のように浮かんでいるから視界は非常に悪い、なんなら、横にいるはずの人も見えない、自分が突然一人になったような気持ちになる。岩盤浴をしている間は自分との戦いだと思いながらいつも汗を流してきたけれど、そんな気持ちがよりいっそう強くなる。雲に浮かぶというか、雲を浴びるような、そんな気持ちで、他にすることもなく、ただひたすら自分と向き合う時間を過ごしてきた。いつか死んだら周りに誰もいなくなって、一人でふわふわ浮遊し続けるのかな、多分違うだろうな。そんな余計なことも考えながら。

いつもと違う形で体力を使ったからか、この晩は珍しく、途中で一度も起きることがなくぐっすり眠れてとても気持ちが良かった。

最近お疲れのみなさま、握りしめているその携帯電話があなたをさらに疲れさせているかもしれません。たまには携帯電話を手放して自分と向き合ってみませんか?

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