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『テルマエ・ロマエ』が教えてくれた【百合ヶ丘・松葉浴場】での過ごし方

空前のサウナブームだと思う。
そして、そのブームにまんまと乗せられている。

コロナ禍で長く続いた行動制限とそれが生み出した分断。
オンライン越しでしか会えなかった遠くの家族や友人・知人に、今年に入っては特に顔を突き合わせて話をする機会が増えてきた。
そのコミュニケーションツールの一つとして、サウナが選ばれているのではないか、とすら思う。
黙食・黙浴ルールはどの温浴施設にもあるが、2人・3人といったグループでの来場とヒソヒソ声でのおしゃべりまでは、店舗スタッフも全部を止めていられない。テレビがついていないサウナ室の場合は特に「うるさいなぁ…」と思うこともあるが、それも含めて自分の時間と思うことにしている。

こういった場面は、渋谷・SAUNASのようなサウナ特化型の施設やスーパー銭湯のような大型施設のみならず、街なかの、とはいえ多少駅からは離れていて住んでいる人にはいい塩梅に位置している銭湯でも同じだ。
コミュニティ密着型が故にリピーター率も高く、常連さんたちが作り上げた、壁の張り紙とも違う「マイルール」もまた、こういう街なんだな、という理解につながる。
昔住んでいた頃には全く興味がなかった銭湯サウナに、今更ながら行ってみることにした。

小田急線・百合ヶ丘駅
松葉浴場

7年ぶりに百合ヶ丘へ

新百合ヶ丘駅から新宿側に一駅。各駅停車のみが発着するこの駅に降りると、街は様変わりしていた。
その駅前から、地元スーパーが消え(改装中)、パン屋も飲み屋も消え、地元信金は合併して跡地に入る予定の店舗があるようには見えない。
変わらないのは開発当初から駅前に広がる巨大団地群。団地というとやや駅から離れたイメージだが、百合ヶ丘は、駅前から続く階段を登ればすぐにそれが見えてくる。

銭湯自体は駅前ロータリーから徒歩15分(上り坂が苦手な人はバスで2駅)。公園の奥まった位置にあるのが『松葉浴場』である。

いざ中へ

どこからどうみても古めかしい外観、サビてしまった「サウナ」の文字看板。

やきう民、推し背番号に靴を入れがち

多少の不安を抱きつつ、番台さんに「サウナを使いたい」旨を伝えると、入湯料500円+サウナ料300円(2023年2月現在)の証拠に、黄色のバスタオルを渡される。
このバスタオルを持たずにサウナに入ると罰金らしい。

更衣室自体はかなり広く、飲み物も更衣室内で確保できる。ちょっと歩けば、コンビニもあるのだが、サウナ客のニーズを把握した自販機構成に、ちょっとニヤリとする。
かと思うと、まだ動くのだろうか…と心配になるほぼ古い、寝転んで使う全身マッサージが鎮座。
このギャップが、たまらなく良い。

身体を洗って、懐かしい「ラドン湯」で温まった後に向かったサウナはガス式。温度計は見当たらず、多分80度前後。激アツでもなんでもないのに、3分もいると汗がすごい。
熱効率を上げてると思われるテラコッタ風の天井もおもしろい。

十分汗をかいたところで汗をさっとシャワーで流し、いざ水風呂へ。水温計は25度を指してるけど、これは絶対に壊れている。
感覚的に10度を切ってて、普通のところなら2分は平気なのに、1分も入っていられない推定シングル温度。
ただし、水道から直接注がれるので、夏はきっとぬるい。
言い方を変えれば天然の水風呂。

身体の中心から冷たい呼気を感じ始めたところで、休憩スペースへ。厳密にいうと休憩スペースではないのかもしれないが、天井あり・カランありのスペースに、大きめのプラスチック椅子が二脚。
常連さんはほぼ来なかったので、奥の方に好きに移動させて、のんびりくつろげた。

コミュニティハブとしての銭湯

百合ヶ丘に住んでいる友人によれば、後継者問題もあるらしい。
サウナはないものの、たとえば小杉湯のような若いオーナーがいる施設であれば、SNSの活用や他店舗とのコラボを通じて人を他エリアから呼ぶことも出来る。

しかし老齢であることが外見から分かるオーナーに出来ることは、これではない。
客がいなくなった深夜に掃除をし、設備点検をし、湯張りをし、サウナに再び火を入れる。
もう読めないほどに注意書きがはげてしまっている「ラドン湯」の表記を直すこともなく、原油代の高騰で名物の露天風呂も閉鎖中。外気浴エリアの電灯やサウナ室の床面は、ガムテープやビニール紐で補修。
設備投資をする余裕もなさそうだが、キチンと磨かれていることがわかるお風呂には、ひっきりなしに人が入っては出ていく。
これが地域に溶け込むんでいる銭湯の証左なんだろう。

壁には黙浴を含めた様々な張り紙がある。
だが、サウナ室の秩序はやはり常連さんがいかに快適に過ごせるかで出来ている。
テレビ前に寝転んで情報交換するお姉様たちに割って入り込む勇気はない。
建物の構造上できてしまう柱の影から半身をだして、テレビを見た。

放送されていたのは『テルマエ・ロマエ』

郷に入れば郷に従え。
古代ローマ人と共に、お姉さまたちがくつろぐ姿を、ずっと見ていた。

#ヤクルトスワローズ #Enlightened #swallows