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マイノリティとしての私を語るためには、本を一冊、書かなければならない

アジア人、ノンネイティブ、女性。私のプロフィールは、私をグループの中でマイノリティにした。実のところ、5週間でもっとも豊かだった体験と学びは、この「マイノリティになった」ことだった。

その場で自分がマジョリティに属するかマイノリティになるのかは、単に数の問題、グループに欧米人が多いのかアジア人が多いのかというバランスによる場合もある。数がつくる差はシンプルだ。そして、歴史がつくってきた非対称性が立場を選ばせる場合もある。ここは大いに複雑で、戦争や経済の歴史、肌の色、国籍やルーツを持つ国の世界的なランクやなどなどが影響する。

マイノリティになって、まず気が付いたことは、疎外感だった。

グループで交わされていく話の内容にもスピードにもついていけない。まるで幽霊にでもなったかのような、影の薄さと所在のなさを感じていた。単に言語や文化の壁だけではないなにかが、私に疎外感を味あわせていた。

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マイノリティが感じる、多様な抑圧

仏門の僧侶だというアメリカ人のジョーゲンが、「抑圧」について教えてくれた。英語では心理的抑圧を3つの言葉で表現し、それぞれに含意が異なる。「repression」はコンフリクトから起こる抑圧で、「suppression」は蓋をしている/されている感じ、「oppression」は政治やシステムからくるもの。

抑圧に種類があるのだと、意識しはじめたら、私が抱えていた疎外感は、複数の抑圧によって形成されているのではと考えるようになった。そこで、ただ重くのしかかっているようだった抑圧を、因数分解してみることにした。

・言葉を理解していなかったらどうしよう
・間違った発言をしてしまったらどうしよう
・日本の常識は通用しない
・アメリカの、欧米社会の常識を正確に理解しなければならない
・発言するなら意義のあることでなければならない
・英語で話さなければならない
・論旨を展開するための共通言語/体験がない
・アジアや日本の文化をどう説明していいかわからない
・そもそも自分が何を言いたいのかわからない
・不用な発言で誰かを傷つけたらどうしよう
・私がいま理解していることが正しいかわからない
・嫌われたくない
・バカだと思われたくない
・失礼なことをしたくない
・伝わるように話したい
・女性は目立ったり威張ったりするべきではない
・私の不安は、私だけのものだ
・だれかと喧嘩をするのが怖い
・みんなが仲良くするためには犠牲もしかたない
・泣いたりわめいたりしたら負け

この時に感じていたぎゅぅとした気持ちの中身を、書こうと思えば、まだまだ書けてしまう。ともかく私の心の内側では、ここに書き出したような多様な抑圧が一時に起きて、ツタのように絡み合い葛藤状態を生んでいたのだ。そして、葛藤にエネルギーを奪われて、幽霊みたいになっていたのだと思う。

でも、とにかく伝えなくちゃ

カウンセラーで心優しいキースが、ハンサムな笑顔で「君からみて、何が起こっているのか、教えてほしいんだ」と、助けを申し出てくれた。まっすぐに私を見つめるブルーアイズには、誠実さと優しさが満ちている。とはいえ、マジョリティに属する彼には、マイノリティの感覚はわかりづらいはずだ。そのとき側にいた、シンガポール人の姉弟、ペイリンとユアンテは、キースの申し出に応じて口々にこう言った。「いろんなレイヤーがあるんだよ」「ひとことでは言えないよ」。アジア人で英語を公用語にしている彼らは、私と共感する部分を多く持っていながら、英語を話す心理的な抵抗がない。

キースに手を差し伸べてもらえ、ペイリンとユアンテの共感に後押しされて、私がその時、やっと言えたのが、この一言だった。

「いま私が感じていることを、正確にあなたに伝えようと思ったら、本を一冊書かなくてはならないの」

それでも自分らしくいるために

私は仕事柄、人に伝える技能に長けている。そんな私でも、その時にかかえていた気持ちを、キースに説明なんてできなかった。

なぜなら、私がもつひとつの意見や感情の背景には、日本人としての文化や習慣と、女性がもつ感性から見えること、私個人の生きた歴史やそこで抱えたトラウマなどなどか、複雑に絡みついているからだ。正確に伝えることにこだわるなら、章立てして整理して、ひとつひとつ解きほぐしていかなければならないだろう。必要かどうかは別として。

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マイノリティの立場にいた私は、自分を子どものように感じていた。けれど、本来の私は知性も経験もあれば勇気も度胸もあるしユーモアだって持っている成熟した大人だ。グループの中で、自分を弱者の側に置いたりせず、等身大の自分を示すことが、学びの5週間を通じた私のチャレンジになっていった。

複数の抑圧にからみとられていた私がにとって、助けになったのは、日本人やアジア人など、近い感覚と立場にいる人からの共感。近しい感覚の人が他にもいるのだと思えたら、とにかく何かを話しはじめてもいいと思える(余談だけれど、近しい立場からの反感は刺さるように辛い)。そして、キースのような遠い立場の人には、待ってもらえること、受け止めてもらえること、私の発言を真剣に聞いてもらえることが重要だった。

ダイバーシティ時代のリーダーには、共感力と聴く力が必要だ。

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