究極の弁当をめざして
子供のころから、体育の時間が苦痛だった。逆上がりは何回練習してもできるようにはならなかったし、クラス対抗リレーは恐怖でしかなかった。義務感だけは強い子供だったので体育の授業をさぼったことはなかったが、どうしてこんなことをしなければならないのかと、強い理不尽さを感じていたことはひどく記憶に残っている。個人的に義務教育では、生涯にわたって運動やスポーツに親しむ素養は身に着けられなかったといっていいだろう。
そのため、競争や羞恥心のない、それほど苦痛を感じない運動というものに出会えたのは義務教育が終わってからだった。そこからさらに、人間が健やかに生きるには運動習慣が欠かせないと実感し実行に移すまでは10年ほどかかってしまったのだった。
前置きが長くなったが、ここ数年ほどの定期的な運動としてほぼ毎日自転車で通勤している。夏もそれほど暑くなく、冬に雪が降らない地域に住んでいるからこその特権である。片道20分ほどでそれほどの距離ではないが、朝の通勤はかなりの坂道なので職場に到着するころには汗だくになっていることもある。
毎日少しずつではあるが気軽に運動できるところがとても気に入っているのだが、一つだけ問題がある。お弁当の重みがダイレクトに運動負荷を上げてくるところだ。自炊と食事が大好きな人間としては毎日のお弁当はなかなか譲れないこだわりがあるのだが、かなり大食いであることもあり当初の私のお弁当はかなり重量があった。これをカバンに詰めて坂道を20分漕ぎ続けるのは、元運動嫌いの人間としてはかなりつらいものがある。さらにまずいことに、ちょっと汁気があるものを入れるともっと重くなるばかりか、走行中の揺れで中身が漏れ出る危険も倍増する。かくして、私にとって最適な弁当を目指す試行錯誤が始まったのだった。
今年で試行錯誤も三年目、究極の弁当はまだ開発できていないが現時点での私の最適解は職場で熱湯を入れて食べるスープ、おかゆ、リゾット系のごはんである。オフィスに春雨スープ、乾燥スライスしいたけ、ふえるわかめ、オートミール、鶏がらスープの素を常に待機させておき、メインのタンパク質と野菜だけをスープジャーに入れて持っていくと、あとは必要な材料を合わせてお湯を注ぐだけでお昼が完成する。
例えば、昨日はカットした木綿豆腐だけを(軽量化のためにプラスチックの)容器にいれて持っていき、オフィスで乾燥春雨、スライスしいたけ、ふえるわかめ、スープの素に熱湯を足して春雨スープランチとした。また他の日はキャベツ、ニンジン、鶏ひき肉の野菜炒めを持っていき、そこにオートミールと鶏がらスープの素、熱湯を足してとろっとしたオートミール入りスープのような昼ご飯だった。
この「超軽量即席熱湯系ランチ」の課題はバリエーションに乏しく、ちょっと味気ないところだろうか。まだまだ改良の余地がある昼ご飯であるが、お弁当の重量に自転車の通勤習慣を潰されるのは防げているのでとりあえず及第点としている。