劣等感


劣等感

歳を重ねたからといって、自然に大人になれる訳では無い。


僕は家族への繋がり意識が低いと思う。

子供の頃はそれなりにどこかへ行った気もするが、僕が自転車というスーパーアイテムを手に入れてしまってからは家族みんなでどこかへ行くなんてことはなくなった。


父は父で、母は母で、僕は僕で、弟は弟のそれぞれのコミュニティで日々エンジョイしていた。


地元にはゲーセンというものがなかった。小学校の高学年になった時にアピタというイトーヨーカドーみたいな施設が出来た。その2階に小さなゲームコーナーがあり、僕らはそこでお小遣いの全て叩き込んでいた。


中学生になると流石にそんなもんでは満足出来ない。村から自転車で1時間以上かけて、市内のゲーセンにまで遊びに行くようになった。

といっても僕は格ゲーが苦手なのでUFOキャッチャーやビリヤードなんかで遊ぶばかりだった。


今でもある所にはあるが、高額の商品をゲットした人のポラロイドが箱体によく貼られていた。

僕は高額商品など手に入れられたことなどなく、彼等は相当な金を使ったか、サクラなのではないかと疑っていたもんだ。


その日は何軒かある市内のゲーセンのうち、プリクラやらエアホッケーやらと言うチャラチャラしたゲームなんてない、タバコの煙が充満した男の大人のゲーセンに行った。少しだけビビりながら店内をウロウロしてた時にチラッと横目に見覚えのある顔が見えた。

親父だ。

親父が満面の笑みでGショックを掲げているポラロイドが箱体に張り付いていた。

しかもひとつでは無い。三枚くらいの写真が貼られていた。


親父は生粋のゲーマーでありガノタである。

僕が遊び歩いている間、親父も遊び歩いていたのだ。


僕はそんな親父に1度だけ本気の本気でぶちギレられたことがある。

それは僕が4歳頃の事だ。


実家は二階建てで、2階に父と母、1階に祖父祖母子供達。のように住んでいた。僕はおばあちゃん子だったのでこの頃はおばあちゃんと寝ていた。


時刻は夜の九時をすぎた頃であろうか。僕は父がゲームをしているのを見るのが好きだったので父の部屋でひたすらにドラクエをしている姿を眺めていた。


どこかのダンジョンで何かしらの中ボスを倒し静かに「ヨシッ」と言った親父を覚えている。

一区切り終えて


「もう寝ろー。」


と僕に声をかけた。


僕は親父が頑張って倒した興奮が冷めてなかったが、この話をばあちゃんにしよう!と意気揚々と部屋を飛び出そうとした時。

あまりにも短い足がスーファミのACアダプタに引っかかり盛大にコケた。


僕は振り向きもせずに走り出し、階段を駆け下りた。

何故なら立ち上がるよりも先に


「ヴぉぉぉぉおいいいい!!!!」


という親父の叫びが部屋に響き渡ったのだ。


「殺される」


子供心に思った。


僕がギャン泣きしながら階段をかけ下りると、居間に居た母が慌てて飛び出してきた。


何事か分からない母に抱かれ階段を見上げると、そこにはデスピサロのように成り果てた父が仁王立ち、睨みつけていた。


そして壁を殴り付ける。

すると見事に拳が壁をぶち開け手首まで突き刺さった。


小学生になり気が付くのだ。


ドラクエはほんの少しの衝撃でデータがとぶ。


デレデレデレデッデレン


という悪魔のレクイエムが流れ、残念ですが…と死の宣告をするのだ。


きっと、あの時も消えたのだろう。ベラとの内緒の冒険が。ヘンリーとの辛いドレイ生活が。ビアンカとの愛が。子供達との再会の喜びが。


今でも実家に帰ると思い出す。進化の技法に取り憑かれた父の姿が。


僕はもうその頃の親父よりも年上である。あの頃の親父に言ってやりたい。大人気なさすぎるだろ。と。

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