有吉さんと若林さんは仲がいい
M-1グランプリ準優勝の翌年。第一次オードリーブーム。
日本テレビ系『しゃべくり007』(2009年12月14日放送)の調査によると、
2009年11月末の時点でのオードリーの番組出演本数は657本であり、
番組出演本数が1位だったのは容易に想像できた。
ちなみに、この出演本数はあくまで非公式なもの。
翌年の2010年からニホンモニター社の「タレント番組出演本数ランキング」が発表されるが、そのランキングの初回でも、オードリーは507本で1位を獲得している。
今思い返してみても、凄まじいブームだった。
一方、有吉さんは2007年8月のアメトーークにて、品川庄司の品川さんに「おしゃべりクソ野郎」あだ名をつけたことがきっかけで、毒舌キャラとして再ブレイクの真っ只中。
出演依頼された番組は絶対に断らないと豪語しており、数多くの番組に出演していた。
そんなブーム真っ只中の二組なので、
さぞかし共演も多かったであろうかと思いきや、
2009年時点では片手で数えるほどしか共演していない。
ゴールデン帯で活躍する売れっ子と深夜の暴れ馬
どうして、出演本数の割に共演がなかったか。
それは、時間帯によって棲み分けがされていたからである。
昼間・ゴールデン帯はオードリーの時間
華があって上品で、好感度が高オードリーは、ゴールデンの特番や午後のワイドショーに引っ張りだこ。
大きいひな壇でのガヤが得意ではないものの、トークを振られた時の立ち振舞は完璧。一発芸が必要なときは「〜している藤岡弘、と中尾彬」を披露し、無難に立ち回っていた。
一方、オードリー=春日の時代でもあり、若林さんは目立つタイミングを虎視眈々と狙っていた。
深夜帯は有吉さんの時間
オードリーがブレイクしていた頃の有吉さんは、
ブレイクの限界を感じていた。
知らない地方のアナウンサーにも、あだ名芸を求められたのがきっかけだった。
毒舌キャラで、先輩や女性タレントに噛み付く立ち回る芸風は、
バラエティ番組上で嫌われ役を買って出る役割。
世間一般からは「性格の悪い嫌な奴」と誤解を生み、
「本当の自分はそうではない」と、どんどん卑屈になっていた。
一方、世間はレッドカーペットブーム。
この頃の有吉さんは、レッドカーペットブームでブレイクした若手と一緒にされるのを嫌い、なるべく距離をとろうとしていた。
「ブレイクが終わって売れなくなったら、暴露本を出して引退する」
的なことを、言っていた時期だった。
これだけ棲み分けがされていると面白いことに、ブレイクの時期は完全に一致しているにも関わらず、若林さんは有吉さんのあだ名の洗礼を受けていないのである。
性格が真反対に思われている2人なので、「有吉さんの毒舌に、大人しいオードリーなにも反論できずに黙る」イメージが何となく出来たからであろう。
芸人人生をかけた「人見知り芸人」
そんな2人が、ガッツリ手を組む番組の企画があった。
アメトーークの「人見知り芸人」だ。
「じゃない方」を脱却したい若林さんが、満を持してプレゼンした企画。
人生の"賭け"とも言える企画に、
あの、毒舌イメージの強い先輩の有吉さんをオファーするなんて…
と、若林さんの肝の座りっぷりに驚いたものである。
一方、有吉さんは「出演依頼された番組は絶対に断らない」と自分で言っており、後輩から名指しでプレゼンされた以上、断る選択肢がなかった。
一番売れている後輩からの果たし状とも受け取れるような行為は、この頃の有吉さんにとって、さぞかし怖かったであろう。
「人見知り芸人」の初回は、いつもの和やかなアメトークとは違う、人生を賭けた本気のトーク戦争が行われていた。
若林さんが企画した企画なので、若林さんの本気トークが注目されがちだが、その横で「後輩に負けたくない」と血眼になりながら応戦する有吉さんも忘れてはいけない。
2人の熱量は、他の出演者と明らかに違かった。
芸人人生をかけた一世一代の弾を込めたトーク。
あの2人が、あそこまでわき目もふらずトークする姿は、後にも先にも見たことがない。
本番では編集でその熱量が多少和らいでいたものの、スタジオがなんとなくピリピリしていたことから、散弾銃をぶっ放し続ける二人の勢いが凄まじかったことを察することができた。
そんな激しい戦争をしていたにもかかわらず、この企画自体にキツイ印象なかったのには、ある理由があった。
それは、「有吉さんと若林さんの笑顔」だった。
2人の笑いのツボが驚くほど似ており、同じタイミングでケラケラと笑っていた。
後ろに座っていたバカリズムさんが話すと二人して後ろを向き、目をあわせて共感し合う。
宮迫さんの言葉に「すごーい」とシンクロするシーンもあり、まるで仲のいい兄弟のよう。
この放送で「人見知り芸人」で若林さんのトーク力が証明されたのはもちろん、有吉さんの「愛嬌があって可愛げのある一面」にフォーカスがあったったのはこの企画が初めてだった。
この人見知り芸人をきっかけに、若林さんは人見知りのキャラを定着させることに成功し、じゃない方のイメージを卒業した。
一方、有吉さんにも変化があった。
「性格の悪い嫌な奴」と勘違いしていた人に対しての誤解が解けたのだ。
すると自然と後輩が寄ってくるようになり、"毒舌"はいつしか"鋭いアドバイス"へと変え、後輩を引っ張る頼もしい先輩に変わっていった。
ひな壇で共演が増え始める2人
人見知り芸人から時期が経つと、有吉さんと若林さんとの共演が増え始めていった。
この時期はオードリーとしてではなく、若林さんとしてのピンの仕事が増えた時期でもあり、第三の相方のようにキャスティングされていた。
若林さんにとって有吉さんとの共演は、とても心強かっただろう。
2012年にはトーク番組「こんな感じでどうですか?」が始まり、3ヶ月に1回のペースで深い話をするようになる。
この番組で有吉さんは、オードリーのラジオを聞いていることを明かし、若林さんが背筋を凍った話は有名である。
この番組が終わる2013年頃には、若林さんが「有吉さんとご飯行きたいです!」と声をかけれるほど、2人の距離は縮まっていった。
加速する有吉と、有吉の背中を追う若林
2010年代に入ると有吉さんは勢いが加速し始め、冠番組が増えていった。
また、有吉さんの後を追うように、
若林さんのところにもMCの仕事が舞い込んできた。
若林さんにとってMCの仕事が来るのは、晴天の霹靂の出来事だったようで、2013年から焦るように勉強し始める。
そこで、MCの教材にしていたのが有吉さんだった。
ラジオでは一時期、有吉さんのような強めの口調になっていた時期もあったほど、心酔しているようにみえた。
MC有吉と、キャラが被る若林
一方、共演することによって、良くない方向にいく番組も少なくなかった。
価値観や笑いのツボが似ているため、有吉MCで脇を若林さんで固めると、特定の人をめった刺しにしてしまう。
また、人見知り芸人に一緒に出演していたバカリズムさんの存在もあり、有吉さんのMC横として若林さんがいる番組が減っていった。
現在の芸能界のシステムではMCクラスになると、ダブルMCとかにならない限り、共演することはほぼ無くなる。
互いの活躍ぶりからして、2人の共演が見れなくなる日が来ることは、そう遠くないことは何となく感じていた。
プライベートでばったり会う
神様がそのことを伝えるかのように、プライベートでばったり会う機会が立て続けに起こった。
正月のラスベガス旅行
若林さんとゴンチャンがポールダンスを見に行ったら、有吉さんとアンガールズの田中さんと平成ノブシコブシの吉村さんとばったり出会った。ガールズバー
若林さんがマシンガンズの西堀さんを呑みに誘ったところ、西堀さんと有吉さんがガールズバーで呑んでおり、若林さんも同席した。
※なお、有吉さんはベロベロで全く覚えていなかった。
二人はとても仲が良かったが、「若林はいじりづらい。気を遣わせる。」と有吉さんが若林さんに指摘するシーンも垣間見えた。
「有吉の夏休み」に招待される
オードリーが「有吉の夏休み2014」に招待される。
ハワイでロケするにもかかわらず、オードリーのラジオスタッフの渡航費用も出すんだから、色んな意味でヤバい番組である。
そういえば、「こんな感じでどうですか?」の番組の中で「次はハワイからロケしよう!」という流れだったにも関わらず、他の共演者の不祥事で番組が事実上の打ち切りになり、ハワイロケが実現出来なかったことがある。
同じフジテレビの単発なので、スタッフさんが同じなのかな?と思うと辻褄があうし、有吉さんがここまでしてもオードリーを呼びたかった理由に、なんとなく納得ができた。
ハワイロケは「カメラ気にせず楽しんでください」スタンス。
他の番組で放送されたことのない、アンガールズ田中さんとのライバル対決を実行し、見事に放送されたのだった。
ロケの帰り際、有吉さんにとあるリクエストをされる。
2009年の売れっ子の時期から、
かなり年月が経っているにも関わらず。
若林「有吉さんなりのエールだったりするのかなー」
春日「なるほどね、結局お前らは漫才だと…多分、そういう意図はないと思うw」
ハワイ帰りのラジオで「そんな訳ないか!!!」笑いあっていた。
その後
有吉の夏休みが放送された年の年末に、今でも続くオードリーのネタライブの初回が開催された。
有吉さんがきっかけで開催されたかどうかは、若林さん本人にしか分からない。
一方で、有吉さんと若林さんとの共演回数がめっきり減った。
2017年4月13日のアメトーークの「ひな壇ドラフト会議」で久しぶりに一緒になったものの、それ以降、二人は全く共演していない。
よくよく考えてみると、
有吉が芸人として欲しかったものを、若林さんがすべて持っている。
・仲のいい相方
・自分たちだけにしかできないネタ
・仕事の枠を超えて、仲良くしてくれる親友
今あらためて考えてみると、やっぱり有吉さんなりのエールだったのかな。
共演はないものの、つながる二人
2022年現在、
有吉さんはやたらオードリー事情になぜか詳しく、「TAIGA」さんや「ビックスモールン」の名前を番組でよく出している。
一方で、若林さんも「有吉の壁」や「有吉さんぽ」などの番組を見ており、互いに互いの動向を確認している。
2人とも真面目で、同業者の出演番組を確認するのはある意味必然なのかもしれない。
しかし、共演者も被っていることが多いので、笑いのツボが似ているのは、今も昔も変わらないのかもしれない。
今のバラエティ番組における若手芸人は、
若林さんから飴をもらって、
有吉さんからムチをもらえるんだと思ったら、
ただただ羨ましくなった。
オードリーが本当の意味で天下をとった時、有吉さんはきっと、あちこちオードリーに来てくれるであろう。
そのとき若林さんは何を聞き、有吉さんは何を話すのだろうか。