【イカとの違い】



犬と猫のように、違う生き物だけどやたら比較されるタコとイカ。もちろんこれも思いついたことだけを私の勝手な感覚で書かせていただきます。


まずタコとイカの違いについて誰もが最初に思いつくのは足(腕)の数でしょう。タコが8本に対しイカは10本。ただ、タコは8本のうち6本が腕で2本が足。イカは10本のうち2本が腕で8本が足。とも言われています。イカの腕、特に長いその2本は触腕(ショクワン)と呼ばれています。しかし実際イカの中にはトータルで8本のものもいるそうです。触腕の先端には吸盤が集中していて、主な役割はそれを伸縮させて魚類や甲殻類を捕食します。カエルやカメレオンの舌のような役割だと言えます。TVで見たことありますが沖縄の亜熱帯にいる甲イカの一種のコブシメ。その触腕を伸ばすスピードは驚くほど速いものでした。そして逆の場合、外敵にその触腕が捕まったときなどは、トカゲの尻尾のようにそれを自ら切って逃げる。また種類によっては成長すると触腕自体がなくなるものもいたりするようで、特別大事な器官でもないと言う学者もいます。益々よくわかりません。

 さて具体的に違いを探ります。まずイカの雌雄と生殖について。例えばスルメイカの場合、タコと同様に交接腕(右4番目の腕)というものがあり、オスの場合他の足(腕)とは違う形をしているそうです。その交接腕を通して精子の入ったカプセル、いわゆる精莢(せいきょう)をやり取りするそうです。ここまではタコとほぼ同じですがその他の生態はビックリ。まったく違います。雌の方に注目すると、特徴的なのは口(カラストンビ)の周りにブツブツの突起が並んでいます。タコの場合は雄が精莢を直接雌の体内に送り込み、雌はそれを受け取るのですが、スルメイカのやり方は凄いです。ちょっと乱暴に思えます。スルメイカの雄は交接腕を雌に近づけ、精莢を口にぶっ刺すそうです。その刺激で精莢は破れ精子が飛び出し、雌の口の周りにあるブツブツの突起に付着するのだとか...。いやいや... なかなか...。スゴイことしてますねぇ...。
ツンデレの女の子が好きな男子にバレンタインデーのチョコレートを渡す時、勢い余って乱暴に押し付けて袋が破れるみたいなシーンを想像してしまいました(いやかなり違うか... だいたい生殖活動と比べるのは...)。でも、ここでまたすごく疑問に思う事実があるのです。実はこの段階では雌の身体は産卵するほど成熟していないそうです。

「えっ!! どういうこと? 」

って思いますよね。スルメイカの雌はなんとその後3~6ヶ月後にようやく産卵し、その時に受精するそうです。つまりそのような長い期間、雌は口の周りに精子をくっつけていて、場合によっては半年くらいその精子が生きているということです。ちょっと信じ難いですね。それに、

「どんだけ幼な妻と○○しとんねんっ!!」

って話です。


 次は吸盤について。実はタコとイカでは大きな違いがあります。タコはまさに我々が想像する吸盤です。伸縮性のある柔らかく丈夫な筋肉で出来ていて、内部の圧力を減らすことで吸着する仕組みです。因みにタコの皮膚から出る粘液には、その吸盤の動きを阻害する成分が含まれているため、自分の胴体や足(腕)にはくっつかないそうです。まったく良く出来ています。ところでタコにとって吸盤はとても大事なものです。その機能が低下すると、外敵から身を守る行動やエサを捕食できなくなるなどのリスクがあります。そのため、頻繁に脱皮を繰り返すようです。そのため脱皮を促すために腕を『これでもか』というくらいクネクネする行動をとることもあります。それを見た漁師が『タコ踊り』と言い出したとも聞いています。また、実際にタコを洗っているとき、スミや汚れが詰まった吸盤を見て、

「ああ... 面倒だなぁ...。」

なんて思うのですが、脱皮しかけた表皮ごと、『スルリ』と取れることが良くあります。仕事ではありますがちょっと気持ちいい...。

ではイカの吸盤はどうなのか? 先程からイカの『吸盤』と何度も書いていますが、その役割を果たすとき、タコはほぼ100%『吸着』ですが、イカは主に『引っ掛け』になります。そう、『吸着』は大きな手段ではないのです。イカの吸盤にはその先端に丸い王冠のような形をした半透明な歯というか棘のようなものがあります。イカはそれを獲物にあてがいカギ爪で放さないようにするのです。くっ付く役割もあるのですが、それ以上に『引っ掛けて逃がさない』という手法です。触腕をカメレオンのようにシュバッと伸ばして... いうか発射して獲物を捕らえるのは同じですが、くっ付けると言うより引っ掛けるのですね。確かに水中だとくっつきにくいですね。魚とかもヌルヌルしてますから引っ掛ける方が成功しやすいのでしょうね。

ところで私は釣りが好きでイカ釣りも何度も行きました。スルメイカも釣りました。魚の場合、つり針が口にしっかり刺さって更に抜けない形状になっているからそれ自体が外れることは殆どありません。だからつり糸が切れたり魚の口が破れたりしない限り魚は逃げられません。しかしイカ釣りは方法にもよりますが、まだイカが釣り針に引っ掛かっていない段階でウキが沈んだり竿に重みが感じられることがよくあります。そうです。それこそが触腕で獲物(エサや疑似餌)を捕えている状態です。繰り返しますがまだ釣り針には掛かっていません。だから、その段階で竿を上げるとイカは外套膜を使ったジェット水流で抵抗しますが、ある程度やってもダメなら触腕を放し逃げることがあります。もしかしたらカギ爪が放れちゃっただけかもしれませんが...。でも一旦獲物を意識したイカは警戒心がどこかへ行ってしまっているようで、再び竿を下げエサを海中に投げるとまたまたイカがそのエサをめがけて捕獲しようとします。もちろんさっきと同じイカです。諦めきれずに獲物を捜していたのでしょうか? 結果、一度は難を逃れられたものの、最後は私の食料になるべく釣り上げられてしまうことになります。馬鹿でしょ。せっかく一度は逃げられたのに。「未来の地球を支配するのはイカだ!!」と言っている学者さんもこの事実を知ると考え直すかも知れませんね。

それはそうと、この『カギ爪』を除去しないと食感が悪くて嫌だという人が多いようです。確かに歯の隙間に詰まったりもしますね。でも一夜干やスルメだったら私はあの薄いナンコツ的な歯応えが好きです。同じ感覚の人もいると思うのですが... かなりマイノリティなのでしょうか? う~ん... どうでもいいか...。


 次はエンペラ。エンペラとはイカのヒレのことです。『耳』という人もいますね。このエンペラ。イカ好きの『通』の中にはその触感を絶賛する人がいます。タコの仲間にもごく一部に、胴体の上部に2つの耳のようなヒレをもつものもいますが、基本タコにはありません。やはりイカの方が泳ぐには適したデザインと言えます。因みにイカは種類にもよりますが、その速度とヒレ(エンペラ)を利用してトビウオの様に海面を飛ぶとも言われています。ネット動画ニュースで見たことがある人もいるのではないでしょうか? 興味がある方はネットで調べてみてくださいきっと見つかるはずです。


 さて次はお待たせしました『スミ』について。先ず役割です。タコもイカもスミは外敵から身を守るためのものです。多くの人はその使い方をこう認識しているでしょう。

 『敵に遭遇したらスミで煙幕を発生させて、その隙に逃げる。』

いわゆる『忍法煙隠れの術』。火遁というか、アニメや映画で忍者が煙の発生する玉を地面に投げつけ煙幕を発生させてドロンって具合のアレです。でも忍者と違い海中に広がるスミには敵の嗅覚を麻痺させる効果もあるそうです。おまけに強いものではないものの毒も入っているそうです。なかなか手が込んでいます。ところで以上のような『煙幕』をつかう奴等。実はこの手法はタコだけのもの。イカはスミを違う方法で使って敵から身を守っているのです。その正体はズバリ、『忍法変わり身の術』。タコのスミはサラサラで粘度がなく、海中に出るとまるで粉末タイプの入浴剤のように瞬く間に広がります。まさに煙幕。逆にイカのスミは粘度があります。スミが体から出ると『ブワッ』と広がりません。海水と混ざり黒い塊になっていきなり『ボンッ』っと現れます。もちろんその塊は泳がないのでその場に漂います。敵はその黒い塊を獲物と認識し襲い掛かる。なんと言っても動かないから捕まえやすいですしね。イカは敵が黒い塊に気を奪われている隙に逃げるわけです。

タコはそんなに速く泳げない。基本的に海底(岩場)を歩くように移動する。生活の場も岩場。だから敵の視界を一度奪ってその隙に身を隠す。対してイカは泳ぐことが主、まあまあ速い。だから敵の注意を他のものに引き付けその時間で距離を稼ぐ。住む環境と生態の違いでスミの使い方も違うものになったのでしょうね。

 さてここで食材としての『スミ』について。イカはもちろん皆様ご存知のように認知されています。が、一般的にタコのスミは食材として世間に出回っていないのが現状です。一般的と言ったのは私の店ではタコスミも調理に利用しているからです。かなりレアでしょ!! ではどうしてタコスミは無いのか? それは、

・そもそもタコはイカに比べて漁獲量が少ない。
・同じ大きさのタコとイカでもスミの量そのものがタコは少ない。
・イカは簡単だが、タコのスミは採取しにくい。
・イカのスミは粘度があるが、タコのスミはサラサラしていて料理に利用しにくい。

といった違いがあります。イカの場合、粘度があり扱いやすい上、量も多い。でなければ『変わり身の術』で満足いく大きさの『変わり身』は作れませんからね。また、解体時に取り出しやすい。そしてイカそのものの漁獲高が多い。これらの要因から『イカスミ』はパスタを中心に多く利用されています。ところがタコはどうでしょう。ほぼイカとは逆の現状。粘度が殆どなく水に晒せば水性絵の具のようで、そのままでは他の食材に絡みません。その上量も少なく極めて取り出しにくい。漁獲高もイカに比べ少ない。こんなんですから誰も料理に利用しようとは思いません。だいたい生のタコ、しかも内臓付きのものはほとんどスーパーで見たことありません。また、一般の家庭はもちろん飲食店にもほとんど納入されていませんから話になりません。ただ、このタコのスミ。旨味成分は決してイカに負けていないのです。そのことも含め詳しくはまた後に書かせていただきます。


 さて、スミのことを先に書いちゃいましたが食材としてのタコとイカの違い。タコは足(腕)をメインに食べますが、イカは胴体をメインに食材として扱いますよね。足(腕)は『ゲソ』なんて呼ばれます。音の響きから見てもいい部分として扱われてないですね。でももうちょっと呼び方が無かったのかな? 確かにタコの足(腕)に比べて細くて触感のバラエティさがないですが...。タコは海底や岩場を歩く生き物で、イカは泳ぐ生き物ということからそうなったのでしょう。因みにこの筒状の胴体、正確には『外套膜(がいとうまく)』といいます。もちろんいわゆるタコの頭もそうです。外套膜も筋肉ではありますが、やはり足(腕)に比べると肉質は全然違うものです。その筋繊維は細く、そうですね... なり細い輪ゴムをそのまま積み上げたような感じで外套膜は形成されています。だから外套膜を縦に切ると食感は軽くなる。そう噛み切りやすくなります。逆に輪切りにすると歯応えもしっかりします。タコは足(腕)、イカは外套膜。求める食感も我々はまったく違うものを求めているのですね。

知性。タコが賢いということは良く知られていますが、イカもなかなか凄い。鏡を見て自分が映っていると認識できる数少ない生物だそうです。でっ、その両方の類似点は眼がいいというところ。タコもイカもその視力は非常に優れています。特にタコには脊椎動物の眼と同様に、角膜、前房、水晶体、硝子体、網膜があります。私が厨房でタコを仕込んでいるときも、たまに眼から水晶体なのでしょうか? 直径2~3mmくらいの球体、濁りのないキレイなガラスのような物体が出てくる事があります。

「美しいレンズだな...。」

って感じます。まさに小さな水晶玉みたいです。視力がいいことも成る程頷けます。眼がいいということは、それ自体脳の発達と密接な関係があります。視覚から得られる情報は当然脳で処理されます。感覚には、触覚や聴覚、嗅覚、味覚などがありますが、断然その処理量が多いのは視覚。単に光の濃淡を感じるレベルだと別ですが、発達した視覚はそれだけで発達した脳を持っているということです。そして進化を続ける限り更に脳も大きく優秀になるのです。学者によっては人間が絶滅した後、地球を支配するのはイカやタコだと言う人もいます。結構マジな話だそうです。

 最後に、案外知られていないのはタコとイカの外套幕の形状の違い。イカの足(腕)を下に外套膜を上にまな板に乗せた姿を想像して下さい。眼の上に外套膜がありますが、外套膜はまるで長ぁ~い帽子のようになっています。ところで本当にコレがまるで帽子のような形なんです。前から見ても、後ろから見ても、右も左も、頭と外套膜の一番下の縁(ふち)の部分は直接目や足(腕)とくっ付いている所はありません。目や足(腕)の部分に上からスッポリと帽子のように外套膜が被せられているような形状です。もちろん中の奥の部分でくっ付いていますが本当に帽子をすっぽり被せたような形をしています。さて、それではタコはどうでしょう? 同じように足(腕)を下、外套膜を上にして見たら... の部分、目の上あたりが繋がっているのです。イカと違って頭と外套膜は表面の皮膚の一部が繋がっているのです。ただ、後ろと左右、そこは繋がっていません。繋がっている部分は1/3くらいでしょうか? だからタコは帽子みたいに見えずそのまま大きく丸い頭みたいに見えるのでしょうね。イカは外套膜を収縮させて外套膜内の海水をジェット噴射のようにして泳ぐことがあります。タコも同じように泳ぐのですが、タコの場合は足(腕)で海底や岩を這うことが多いです。タコのように繋がっている部分がないイカの方が、より大きな推進力を得るためには有利なのでしょう。また、イカはエンペラを使って後ろに泳ぐこともできます。より上手に泳ぐのはイカということがわかります。『タコは歩く』。『イカは泳ぐ』と言われる所以なのかもしれないですね。因みに漫画などでまるで口のように描かれる漏斗は、タコの前面ではなくて後ろにあります。なので眼の下辺りに口として描かれているのはまったくの間違いです。その漏斗も繋がっているのは1/3程度で、人間の耳や鼻のような『穴』のような形状ではありません。やっぱり不思議な造形です。


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