〖余談〗の時間 その弐



とある暖かい晩春の日、昼下がりの午後、陽光がちょっと眩しい日でした。
私の店は常に『できたて!! 焼き立て!! 』をお客様にご提供するため、常にご注文後に調理を始めます。なので店頭に直接来られる方もいらっしゃいますが、電話で前もって予約をする方も多かったのです。

「タッタッ タラタラ タッタッ タラタラ~♪」

電話の着信音が鳴ります。ありがたい予約の電話です。早速1パック(1人前)を焼き始め、10数分後、焼き上がりとほぼ同時に丸刈りの中年男性が取りに来られました。無言なら結構な強面ですが笑顔。やり取りも普通。気持ちよく、

「ありがとうございました。」

っとお礼をし一連の作業が終了です。

 するとその後、だいたい30分ぐらい。また予約の電話が鳴り、また同じように調理が始まります。今度は2パック。そしてお客様がおいでになり手渡し。

「んっ...?」

さっき来た丸刈りの男性です。奥様と私は顔を見合わせ、

「うれしいね。ありがたいね。」

っといい気分でした。

そしてまた今度は10分後くらい。またまた予約の電話がありました。それにご注文は3パック。面白い増え方です。しかもまさかと思いましたが、その電話口の雰囲気からして同じ男性だと思われました。そして予想は的中。同じ男性がやってきました。ただ、一見雰囲気が違うなと思ったら、その男性の上半身。さっきまでの長袖の羽織っていた服がなくTシャツ姿でした。その時窓口には奥様がいたのですが、受け渡し時にその男性は奥様を見て、

男「ほんまにこの店、美味しいなぁ...。」

っと去り際に満面の笑顔で言ってくれました。ギャップがカワイイと思える程です。

 その台詞が終わるや否や、クルリと身を翻したその男性、Tシャツの袖からは鮮やかな刺繍のような絵が見て取れたのでした。嗚呼、人生いろいろ。いやいや、今度は本物でした。でもどうしてでしょう? 大名刹のお坊さんの方が『ソレ』らしくみえるのは...。

(脱サラして最初にオープンした店は、『や』の文字が頭につく小さな事務所がほどほど多い地域にありました。まあ、特に珍しいことではありませんが。)


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