2度目の本免許技能試験

【 1983(昭和58)年5月 20歳 】



 何ともモヤモヤした気持ちのまま1週間が過ぎた。とは言え仮免の時の1週間と比べると切羽詰まった雰囲気はほとんどなかった。あの時は自分を責めたり嘆いたりしたが、今回の1週間は何とも納得できない怒りが私の心を支配していた。だが、それも後少しの辛抱だ。免許を取ってしまえばそれも面白いエピソードになるだろう。私は颯爽と新緑の香りがする道を試験場に向かった。
 先週と同じ水曜日の朝。相変わらず天気予報は10%の雨予報だ。暑くもなく寒くもない、いくつかの雲がポッコリ浮かぶ晴れた日。試験場に着いた私は長袖のシャツを少し折った。手続きを終え検定用の車両へと向かう。途中で仮免受験者の列を見ていたらその先頭辺りで権田さんを発見。すると権田さんも偶然こっちを見た。一瞬目が合い私は軽く会釈した。権田さんはそのままだったが、左側の口元だけが軽く上がったように見えた。やはりなかなか渋くてカッコイイ。
 やがて本免も検定が始まり私の順番が来た。前回とは違い私は往路での検定となった。同乗する後部座席の人は学生風の女の子だった。決して美人ではなかったが何とも言えぬ愛嬌のあるタイプだった。色白で少しぽっちゃり、八重歯が特徴的でアイドルの河合奈保子を連想させる。私は彼女を幸運の女神と勝手に決めつけた。前回の妙なオッサンとは月とスッポンである。そこのところも一週間前とは大違いだった。気持ちも落ち着いていた。先週あれだけのことがあったのだ。もう余程のことでは驚かない。だが試験官が若くはないがちょっと美人の女性だった。これには少し驚いた。しかし女神がもう一人増えたと思い、これもまた気分がよかった。
 そして検定は何ら問題なく終わった。結果は合格。ものすごく呆気なかった。その後手続きを終え約一時間待たされ、やがて名前が呼ばれ遂に免許が交付される。私は心の中で叫んだ。

『やっと手に入れた…。うっしゃああああぁ~っ!』

4か月に渡る戦いに勝利した瞬間だった。

《免許取得のための最終費用は38000円であった》


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